ワタを栽培し、糸にして染色し、織る。というすべての過程がわかる資料を探してほしい。大人向けがよい。

綿と言えば肌触りが良くて,綿シャツなどはこの時期いいですよね。手入れも軽くアイロンする程度で簡単ですし。綿にもいろんな種類があって,そういう視点でシャツを選ぶのもまた楽しいもの。
……というレファレンス事例とは,関係ない話題はさておき,まずは回答と,回答プロセスを引用します。

<回答>
おたずねの、「ワタの栽培→糸にする→染める→織る」という全過程がわかる資料について全部の過程がすべて載っている資料は、当館では見つけることができませんでした。
 
当館には所蔵がないのですが、福井市立図書館所蔵の以下の本をご紹介します。
・はじめての綿づくり 大野泰雄/編 広田益久/編 1986.4 木魂社
福井市立図書館 資料コード 111451258
日本綿業振興会のホームページ http://www.cotton.or.jp/dairy-book.html にある内容紹介によれば、「同書では、ビギナーでも簡単に綿づくりができるように、種まきから収穫までの栽培ノウハウが満載されている。さらに寒冷地での栽培注意点や収穫後の糸つむぎ、染色、織り方などの紹介、綿の由来や文化などのコラムも盛り込まれている」とあるので、これが一番お探しのものに近いのではないかと思いました。

【ワタの栽培法が載っている本】
(1)もめんのおいたち 1976.4 日本綿業振興会(大規模な方法、すなわち大規模農場での栽培法、工場などで行われている糸にする方法について書かれています)
(2)アイウエオ順 学級でできる飼育と栽培 10 みんなでそだてよう ヒョウタン〜ワタ 1993.4 学習研究社 (こども資料です。ごく簡単な栽培法のみ載っています)

【糸にする過程・染める・織るまで載っている資料】
(3)染・織 軍司敏博/監修 1985.3 朝倉書店 技術シリーズ
(4)はじめての織物:手づくりの機から絣まで 荒木峰子/著 1978.3 美術出版社 新技法シリーズ(糸にする過程は、ワタがほぐされてわたの固まりになっているところから始まっています)

【染色・織る過程が載っている資料】
(5)手織りの実技工房:絣からもじり織まで 吉田紘三/著 2002.12 染織と生活社
染織関係の資料は、他にも多数ございます。

<回答プロセス>
(1)日本十進分類法 9版 一般補助表・相関索引編 より、ワタは、618.1(栽培法)479.84(植物学)と分かる。ilisで検索するも、当館該当資料なし。書架の近接書を見るが、該当なし。
(2)書架587,753.8のあたりをブラウジング。「染・織」1985.3 朝倉書店など数冊を発見。(糸を紡ぐ〜織・染までを記載)詳細別紙。
(3)「ワタの絵本」で綿の種プレゼントの送り先として「日本綿業振興会」の名を発見。ホームページを見ると、コットン関連刊行物の紹介あり。 http://www.cotton.or.jp/dairy-book.html「はじめての綿づくり」の内容紹介から、この本がふさわしいと判断。福井市立図書館所蔵を県内公共図書館総合目録により確認。→紹介

(引用注:引用文中の丸囲み数字は括弧付き数字に改めた)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000026895

回答プロセスには,図書館で資料を探す時の手順がきちんと書かれています。綿の育て方に限らず適用可能です。OPAC全盛とはいえ,図書館で主題分類するときのよりどころなるものですので,ライブラリアンはぜひ使いこなしたいところ。一般の利用者の方でも仕組みが分かっているとそれだけで全然違うと思います。分からなかったら,図書館の人が丁寧に教えてくれます。分類を使いこなすと,資料に効率的にアクセスできます。
分類表の索引から求める分類番号を得る,実際の書架では近いところの資料もあわせて探していることがわかります。この場合は,大きく6類の農業と4類の植物学の2カ所を探す手がかりとしています。「植物としての綿」(=4類)なのか「綿を育てる」(=6類)なのかこの次点ではどちらとも言えません。どちらの棚から探したらいいかというと,nachume的には6類の方に分類されているかなあと予想をつけてそこから探しに行くと思います。
上手く見つからないときは,手法を変えます。あたりをつけた主題の所で,「イマイチだなぁ…」と思ったら,見に行く棚を変えてみます。ポイントは,「綿を他の側面から捉えられないか」という問いを発することです。視点を変えるというのは,資料を探すときに,すごく重要です。
「ワタ」は「木綿」とも言います。プロセスに明記はされていませんが,NDCの索引で木綿を引くと587.62が得られます。もう少し大ざっぱなくくりで言うと「587 染色加工.染色業」です。ここに分類される資料であれば,綿の栽培から織りまで触れられてていそうですよね。これを元に「染色」というキーワードでさらに索引を引くと,7類で「753 染色史」という分類があることが分かります。すると,587の棚を見たら,次は753も念のため見に行こう,という戦略が立てられます*1
果たして数冊の本を見つけています。あとは,その本をもとにさらに,資料を探しています。このひとつの資料をきっかけに次を探す,というのは是非忘れずに行いたいところですね。同じ著者や出版社,巻末の参考文献やもっと知りたい人のガイド的な案内など,手にした1冊目からいろいろな方向へ拡げて行きます。
この事例では,日本綿業振興会のWebサイトがあることを突き止め,実際にアクセスし,そこで紹介されている資料を再び目録で検索しています。このあたりは上手いですよね。ネットで得られた情報を,さらに図書館で利用するといういい形が見えます。
資料探しはこのくらいとして,回答にも注目すべき点がたくさんあります。まず,質問に答えています。当たり前のことなのですが,質問の意図は,綿の栽培から織りまでの全過程を知りたいということですので,それに答えることです。1冊ですべてまかなえるかまかなえないか,を回答文の最初に持ってくるところはすばらしいですね。かといって,それで終わらせることなく,すぐに,過程ごとに,該当する資料を挙げています。丁寧でいいですね。自館に所蔵がない資料は,ちゃんと所蔵館をあわせて紹介しています。
この事例は,レファレンスの回答としても,プロセスとしてもとても参考になります。こういう事例は本当に勉強になります。
さてさて,綿は服など身近な所で目にするものですが,その元となる植物の綿を実際に見たことがある方はどれくらいいらっしゃるでしょう? 自分の話をすると,昔から父が毎年育てている(趣味なのかは分かりませんが)ので,珍しさはあまりないのですが,実際に見ると,不思議な植物ですよね。種の周りに白っぽい毛がもさもさと生えているんです。ちょうど7月から8月にかけて花を咲かせます。見る機会があれば是非じっくりと観察してみてください。なかなか味わい深い植物ですよ。

*1:慣れたライブラリアンはこのあたりの作業を相当の早さでやっているのですが,段階をきちんと追いかけると上述のような手順を踏んでいます。レファレンスの練習をしたいなぁと思っているライブラリアンの皆さんはこのような手順を一つひとつバラバラにしていくと見えなかったものが見えてくると思いますよ。