第6回レファレンス協同データベース事業フォーラムに参加したよ

去る2月17日,第6回レファレンス協同データベース事業フォーラムが行われました。昨年からフォーラムの名称に「参加館」という言葉がなくなっています。当日は朝東京でも雪が降っていて少しびっくりしました。
今回は国立国会図書館の東京会場と関西会場の2か所で行われています。そして,今回はUSTによる中継や,twitterによる参加,さらに東京会場ではシステムベンダー各社のプレゼンブースも用意されていました。かなりの仕掛けは用意されていましたので,あとは参加者がそれぞれ好きなように触れればいいという感じが良かったです。
例によって,そのうち資料や記録集が公表されるはずですので,それを待つことにして,個人的に印象に残った点をプログラム順に書いてみようかと思います。当日のtwitter*1のつぶやきを元に,各プログラム項目から,一つないし二つ程度簡単に触れていきたいと思います。講師・発表者の発言の解釈はあくまでもnachumeの個人的なものであることを予めご了承ください。

  • 開会あいさつ

長尾館長による開会の挨拶。一番のポイントは,事例データの数が圧倒的に足りないという点でしょうか。長尾館長は50万件程度の事例データがほしい,ということをおっしゃっていました。この点は非常にうなずけます。スケールメリットが生きてるくるためには,数が必要です。レファレンスの事例蓄積にかかる労力は承知しているが,レファレンスサービスが図書館サービスにとって重要なポイントであることから,ぜひ協力してがんばってほしいという長尾館長の言葉に励まされました。

  • 事業報告

年度の事業報告です。各種データについては,着実に拡大しているデータベースであり,それにともなうサービスを各館が本気で考えるべきかと改めて思いました。また,4月にはシステムのリプレースが実施される予定であり,検索用APIの実装やNOT検索の追加などこれまで要望されていた機能のいくつかが実装されるとのことです。個人的にはこれはとてもうれしいです。レファ協を利用したWEBサービスが各館で展開できるようになったと言えます。僕としてはレファ協にすべて事例を預けてしまって,APIを利用して自館サイトから検索したり表示させたりということをしたいと考えています。

レファレンスサービスをどう展開するかという点を基本的なところからお話していらっしゃいました。
個人的には大きく2点考えたことがありました。
まず一つ目は,コミュニケーションの展開に必要なスキルのことです。「デジタル時代の」ということで,原田先生は,情報資源の多種多様化を指摘していました。そして,これによるレファレンスサービスの手法の多様化についてあわせて指摘しています。たとえば直接カウンターでレファレンスライブラリアンに質問するという対面同期的なコミュニケーションに加え,メールによる非対面非同期的なコミュニケーションがレファレンスサービスのプロセスに組み込まれているという指摘です。このことは,ともすれば当たり前のことを言っているように聞こえますが,とても重要なポイントだと思います。一般に,コミュニケーションはそのツール(メディア)の様態にあった対人的相互作用が生まれるものですから,レファレンスサービスをどのツール(メディア)展開するかによって必要なスキルは異なってきます。ライブラリアンはそのスキルを身につけ,適切に使いこなすことが必要だろうと思いました。
もう一つが,情報の共有ということです。情報の共有というのはインターネットとともに非常にやりやすくなっています。基調講演では,レファレンスサービスについて,同僚同士の共有から他の図書館との共有がレファ協を通してできるようになっている点を指摘し,こういう共有化を促進していくのは,レファレンスサービスとしてはよい方向に働くと言っています。僕は,ここにもう一つ,サービスの提供側が共有し,さらに利用者も同時に共有することによる知のありようというのもあるだろうと考えています。レファレンスの事例をネットで公開しておくことは何も図書館のためだけではありません。調べ物をする一般の方にも十分に重要な情報なはずです。図書館のもつ情報を利用者をも含めてあらゆる人々と共有できることはすばらしいことだと思いました。
あ,もう一つ印象に残っているのは「レファレンスサービスはオートクチュール(一点もの)。レファレンスサービスでは,質問者の立場によって異なるニーズに適切に対応したいもの」ということです。これには大きくうなずきながら,だからこそ,その人にあう資料を提供できるようがんばりたいものだと決意を新たにしてみました。

  • 報告(1)「これまでの5年、これからの5年 −レファ協とともに−」埼玉県立久喜図書館 伊藤仁

7千件超の事例登録数がある埼玉県立図書館の報告です。3館の分担や物理的に距離がある場合のレファレンスサービスの組み立てと,レファレンス事例公開サービスの組み立てに興味があり,とても楽しみにしていた報告でした。
3館のうち,1館(久喜図書館)がレファ協の担当事務局となり,とりまとめを行っているとのこと。過去に蓄積されたレファレンス事例を計画的に電子化してレファ協へ投入しているようです。かなり前に作成された事例についても登録しており,コメント機能や一般の方から連絡をもらい事例がブラッシュアップされていくことも多いとか。
この報告を聞いて,やはり数を多くどんどん登録してしまえば動いていくことも多いのだと思いました。埼玉県立図書館では,レファレンス事例のレファ協への登録についてはきちんと担当係が業務上位置づけられており,かつワークフローが機能するような体制ができているように思いました。この点は,規模が大きい図書館であれば,クリアしなければいけないところです。どうやって業務フローを組み立てたのかにも興味があります。
しかし,数千件となるとなかなか他の追随を許さない圧倒的な量ですねぇ…。すごい。

こちらは小規模館(と言っていいのかな)でレファ協を業務に取り込んでいる平鹿図書館の報告です。なにからなにまで(掃除や草刈りなども)自分たちで行う中,非常勤職員を含めた職員全員がレファ協を利用した結果業務に生きてきたという実践報告です。研修への参加をきっかけに,古い綴りを引っ張り出してきて,それを地道に入力していったということです。レファ協への登録は一人でやっていたため不安だったこともあったそうですが,その時に研修で「参考資料が詳しく書かれていてよい」というようにほめられたので少し自信がもてたと話していました。地方での研修会は効果的に行われるとすごい威力を発揮するのだなぁと感心しました。この研修会で声をかけたのがレファ協の企画協力員でもある秋田県立図書館の山崎さん,青山学院大学の小田先生だということで,さすが!と思いました。

  • 報告(3)「現場における情報共有への取り組み −レファ協は一石三鳥−」愛知学院大学図書館情報センター 千邑淳子

大学図書館からは愛知学院大学図書館情報センターの報告です。この大学では,図書館情報センターの運営を業務委託しているということで,その場合職員・スタッフをどうマネジメントしていくかという点が大事になると思います。千邑さんの発表では,なんども「情報共有」という言葉が出てきました。やはり情報をいかに共有するかというのは重要なポイントですね。この情報共有の解決策の一つとして,レファ協へ参加して活用しているとのこと。チーム制をとり,メーリングリストでの議論やミーティングを重ね事例整備を行っているそうです。ここにも,やはり事務局機能の担当係があるようです。業務として複数人が事例作成に参画する場合,それらの進捗管理や登録等を実際に行ったりという調整役は,事例公開サービスにおいて必須の機能なのかもしれません。
レファ協に参加するようになって,スタッフの意識が変わってきたということをお話しされていました。これはレファ協の効果ですね。事例を作る,読む,ということを一人ひとりが自発的にするようになったというのは聞いている側としても,うれしくなりました。あ,発表の中でこの「レファ協ほめまくり」のことを紹介してくださいました。ありがとうございました。これからも続けていきますので,よろしくお願いします。

  • パネルディスカッション「日常業務の中のレファレンス協同データベース―「特別」から「当たり前」へ―」青山学院大学教育人間科学部教授 小田光宏(コーディネータ)/鶴見大学文学部教授 原田智子 / 埼玉県立久喜図書館 伊藤仁 / 横手市立平鹿図書館 遠藤博巳 / 愛知学院大学図書館情報センター 千邑淳子

パネルディスカッションは,事例報告をふまえ,「特別」と「当たり前」についての話です。コーディネーターは小田先生。「第2回のフォーラムと同じフレームワークで,パネルディスカッションを進めていく。この4年でどれくらいどうなったのかが見えてくればいい。当たり前の業務=日々作る,日々使う,日々伝えるということで考えていく」ということで始まりました。
いくつかの質問をもとにディスカッションが展開されていきました。いくつか気になったことをメモしておこうと思います。
レファ協の登録事例と自館サイトで公開する事例の棲み分けをすべきかどうか
という質問がありました。これは多くの図書館が自館サイトでレファレンス事例を公開していることによるのでしょう。レファ協事務局では事例は棲み分け等を考えずに登録してほしいということを言っていました。この点は僕もそう思います。レファ協をうまく活用して自館サービスに取り込んでしまえばいいと思っています。検索用のAPIも公開されるようですので,事例の見せ方を工夫することで,例えば地域情報に特化した事例を自館サイトで紹介することもできるように思います。
レファ協に参加することによる職員の変化
これは遠藤さん,千邑さんが繰り返しお話ししていました。レファ協への参加によって確実に職員の意識や行動が変わっていく,ということです。日常的に触れるような仕組みを作ったことが大きいのだろうと思いますが,そこを仕掛けたお二人にも拍手を送りたいです。
・事例のメンテナンスについて
登録した事例をどうするか,ということが毎年フォーラムで話題になっているように思います。コメント機能をうまく使って事例をメンテナンスしてほしいということを事務局では回答していました。これについては,積極的にメンテナンスすべき,という考え方とメンテナンスは必要最小限にすべき,という考え方があると思います。基本的にはどちらでも,参加館による考え方だと思いますが,僕は,後者でいいと思っています。メンテナンスは必要最小限でかまわないと考えるのは,何よりも事例数を多く登録していこうという方へ力を配分したい,実際にその時点で存在した図書館のサービス記録という意味合いももつレファレンス事例はなるべくその時点で存在したレファレンスをそのまま残しておいてもかまわない,というような理由が挙げられます。完璧を目指す必要はあまりなく,回答プロセスや参考資料が,なんらかの形で活用される方がよほどそのレファレンス事例は生きてくると思います。小田先生は「肩の力を抜いて参加してほしい」旨おっしゃっていましたが,まさにその通りだと思います。小田先生がディスカッションの最後に「いいものしかでない=絞り切ったものしかでないというのはちょっとどうかと思っている。レファ協のコンセプト的には,肩に力を入れないでたくさんの事例を登録してほしい」と言わなくてはいけないのがなんとも。

  • ブースについて

ブースは4社くらいの出展がありました。僕は,3つほどのブースでお話をしました。各社レファ協の標準フォーマットに準拠したり,あるいはマッピングで対応したりと,レファ協との連携はできているようです。
当たり前の業務にするためには,システム的な連携も不可欠でしょう。少なくともWEBのインターフェースだけでは,業務として使うのは厳しい部分もあるように思います。インターネットへのアクセスが業務用端末からできない場合もありますし,必要最小限の項目だけ入力して,あとで直すというような使い方もWEBのインターフェースではちょっと難しいです。ブースとは関係ない話になってきましたが,そういう点では,データの登録系APIが実装されるとなおそういう部分が解決するのではないかと思います。

ということで,レファレンス協同データベースのフォーラムに参加して思ったことや覚えておきたいことをメモとしてだらだらと長く書いてみました。東京での初開催ということで,僕は距離的に参加しやすくなり,うれしい限り。もうちょっと参加者がいてもよかったかなぁと思います。事務局の皆さん,登壇者の皆さん,関係者の皆さん,会場でお会いした皆さん,お疲れ様でした。そして,ありがとうございました。久しぶりにお会いできた人もいて本当にうれしかったです。