衆議院の「法務委員会」の会議録を見たい

「情報公開」という言葉を新聞やテレビで目にしない日はないと言っても過言ではない今日この頃。統一地方選挙が本格的に始まったこともあって,行政機関や地方議会の様々な情報公開に注目が集まっています。
このような行政機関や議会が発する情報はどこで手に入れられるでしょう? もちろん,近年のものはインターネットで入手可能なものが多いです。でも,ネットで入手できる以外には? と聞かれると一瞬詰まってしまいませんか? 直接議会*1に聞いてみればいいんですよね。会議録ありませんかー? って。すると大体「図書室か県立図書館に行って」と言われると思います。
地方議会には図書館(室)が設置されています。ですが,一般県民向けに資料を提供するというよりは,議員に対して行政課題等にかかる調査や政策立案のために資料を整理・提供している機関です。地方議会の図書室では専任の職員を確保することが財政的に難しくて,あまり開かれているとは言えません。議会図書室の一般への開放は行われていても十分に広報されていないこともありますし,開放されていても十分なサービスが提供できていないことがもあります*2
県立図書館をはじめ,その地元の公共図書館でもこの手の資料は入手可能です。地元の公共図書館はこういった資料も積極的に収集し,提供する機能を持っています*3。図書館が資料提供するというのは当たり前なのですが,こういった行政資料等が入手できると図書館のありがたみがわかります*4
前置きが長くなりました。
国会審議の議事録の入手です。これは国立国会図書館が提供している「国会会議録検索システム」で入手できます。これは非常に便利です。さすが「国会」図書館。
ただ,この事例ではそのデータベースだけではなく,冊子体資料についても回答しています(そのような求めがあったからですが)。
回答と回答プロセスを見ていきましょう。

<回 答>
衆議院委員会議録』(衆議院事務局編 衆栄会)に収録されているが、当館では未所蔵。国立国会図書館のホームページ(URL http://www.ndl.go.jp/)からリンクしている「国会会議録検索システム(URL http://kokkai.ndl.go.jp)」を利用すると、国会会議録(第1回から現在)が、本会議、委員会議事録ともに見ることができる。また、国立国会図書館法令議会資料室で、閲覧することができる。当県の議会図書室でも所蔵しているが欠号もあるため、利用に際しては電話で事前に所蔵の確認と申し込みをする必要がある。

<回答プロセス>
(1)担当者が、国立国会図書館のホームページに国会議事録のデータベースがあったことを記憶していたので、確認する。「国会会議録検索システム」から、国会の会期と「法務委員会」というキーワードで検索すると、何件も該当する。また、会議録の全文も見ることができる。
(2)質問者は紙媒体のものを見たいという希望なので、『官報』(財務省印刷局編・発行)の号外の『衆議院会議録』(財務省印刷局編・発行)を見るが、ここには本会議のみが収録されており、委員会の会議録はなし。
(3)[NDC 010 図書館・図書館学]の書架で、参考調査に関するものの中に、資料の紹介がないか調査する。『新現代図書館学講座 14 資料特論』(木野主計ほか編著 東京書籍 1998)[010-293-14]のp105〜109に「議会資料」の章があり、答の資料を発見。本文中に〝委員会会議録は、各委員会単位に議事のあった期日ごとに1冊子にまとめられ〟とあり、衆議院内にある衆栄会から『衆議院委員会議録』(前掲)として市販されていることがわかる。また、〝会議録は一部の大学図書館都道府県および政令指定都市の議会図書館で所蔵するが、一般の国民が利用できる施設は現在までのところ国立国会図書館の法令議会資料室しかない〟とある。この資料の所蔵を確認する。当館では未所蔵。利用について県議会図書室へ問い合わせをした。
(項目番号は引用にあたって丸囲み数字から括弧表記へ変更した)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000025470

大事なのは(3)ですね。データベースの案内と,官報付録の会議録をあたるところまでは通常のレファレンス手段です。でも,利用者は紙媒体で入手したかったのです。
この事例を担当した人はそこでちょっと詰まったのでしょう。どうやったら冊子体を提供できるか。戦略を練り直します。そこで国会関係の書棚ではなく,図書館学の教科書を見に行くあたりがすばらしいですね。図書館司書課程の単位には「専門資料論」「資料特論」などという名前の授業があって,こういう資料の探し方も習います。が,実務をやらずにこの授業だけ受けてもピンと来ないことが多いので,忘れている人の方が多いと思います。忘れてもいいのですが,レファレンス・ライブラリアンとしては「あの授業であんなことやったな」というポインタを忘れてはなりません。レファレンスは「参照」です。ライブラリアンは参照するための引き出しをたくさん持っていた方がいいのです。この事例の担当者は覚えていたのでしょう。図書館学の教科書の中に,議会資料の探し方が載っていたはずだ,ということを。
委員会の会議録は「一部の大学図書館都道府県および政令指定都市の議会図書館で所蔵する」ということをもとに,自館の所蔵を調べ,県議会図書室への問い合わせ,それを利用者に伝えています。自館で提供できない場合も,なんとか提供できる方法を案内する──レファレンスで行うべきことをきちんと行っています。すばらしいですね!

(ほめまくりとはあまり関係ありませんが,個人的には県立図書館は議会図書室・行政図書室なども包括できないものか,と思っています。情報へのアクセスを平等に提供するという民主主義を支えるに必要な機能を図書館は本来的には有しているはずなのです。レファレンスサービスはそういった機能をより活かすためのサービスだと思います。現実はなかなか厳しいものがありますが……。)

*1:というか議会事務局

*2:ただ,地方分権の推進や地方選挙にもマニフェスト型選挙が浸透し始めていることを見ると,議会図書室の活動も,より活発になるところが出てもいいと思います。行政部門だと県政資料室や広報室のようなところで行政資料を公開しているような所もあります。

*3:実際に整理がきちんとされ,利用者の求めに応じ,迅速に資料を提供するレファレンスサービスができているかどうかは,ちょっと微妙かな,とも思います。どこの図書館というわけではないのですが……。

*4:図書館の中の人はもっとこの点をアピールすべきです。○○支援とかいうサービスを展開しているならなおのこと必要ですよね。