明治10年代に、文部省著作の教科書を各地方の印刷業者に版権許可を与え、印刷出版させていたことがあるが、岐阜県内ではどんな教科書が出版されていたか、できれば書名や発行所が知りたい。

今回も行政資料に関連したものを一つ。
「明治期(にかぎらず「昔の」・「昔使っていた」)の教科書を入手したい」というレファレンスも割とよく聞かれます。教科書そのものを所蔵している公共図書館大学図書館は多くないのでは無いでしょうか。あったとしても,網羅的とまでは行かないものの方が多いのでは無いかと思います。図書館で教科書を探すというのは案外難しいと思います。*1
この事例では教科書そのものを探しているわけではないので,教科書そのものの入手については触れなくてもかまいません。
回答を見てみましょう。

1 当時の行政資料としては、『岐阜県管内布達』(現在の県公報)があるが、文部省からの通知がどのように県下に知らされたかはそれで分かるので見てもらう。(目次がないため使いにくいと言われる。)
2 当時の『県統計書』の教育関係統計欄に月別・分野別出版統計を発見。参考にしてもらう。
3 利用者が、同じ統計書の税収欄に版権許可料欄(書名、発行所付)を発見。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000000052

公報には載っていなかったのですね。利用者もお疲れだったでしょう。なんせ「目次がないため『使いにくい』と言われる」というくらいですから。日付が明確であれば公報の類は探しやすいのですが……。「岐阜県管内布達総目次」のような資料があればいいのに。
次なる資料は県の統計書です。教科書の出版事項ですから,まず教育関係の統計を探しています。で,参考になりそうな統計を発見したと。
利用者は「書名」や「発行所」を求めています。やはりそこに合致する資料を提供したい。さらに粘って資料を見ています(利用者が)。すると「税収欄」に書名や発行所がありました。すばらしい。
この事例は備考欄も親切です。

・明治〜昭和前期の『岐阜県統計書』には、現在のものと違って統計だけでなく、個人名、会社名、物件名など、思わぬ情報が掲載されていることがある。

図書館は,「これにあるかもしれません。なかったら違う資料を持ってきます」という文献紹介をきちんとやっています。資料の提供と利用者の根気がバランス良くマッチングしたのでしょうね。利用者は見つけたときにとても嬉しかったでしょうね。お疲れ様でした!
レファレンス事例データは,その事例と同様のレファレンスにも役に立ちます。この事例だと「岐阜県内でどんな教科書が出版されていたか」を調べる時に役に立ちます。
ですが,もう一つ,レファレンス事例を範列関係として読むことができ,これが非常に役に立つのです。この事例からは,「教科書出版については各県の統計書をあたってみようか」とか「岐阜県での明治10年当時の様子を知る時には『岐阜県統計書』をあたってみようか」などという具合にレファレンスの戦略決定の参考にすることができます。
一つで二度おいしい事例。レファ協の事例はレファレンス・ライブラリアンにとって,非常にオイシイのです!

*1:国立国会図書館でも網羅的な所蔵はありません。都道府県立図書館だとしても,教科書を網羅して収集するということはやらないんじゃないかと思います。各県の教育研修センターにはあると思いますが。