「漢文・漢籍資料」の調べ方(叢書編)

今回は調べ方マニュアルを取り上げます。テーマは漢籍漢籍というのは中国で出版された漢文の古典籍や日本で翻刻された和刻本とよばれる資料を主に指します。
大学図書館で中国文学や東洋思想,史学関係の関連学科が設置されていれば,レファレンス事例は多いと思われますが,通常の公共図書館のレファレンスカウンターで問い合わせを受けることは滅多にないと思います。それでも,公共図書館に昔から伝わる資料に漢籍があって,それを整理して目録を出版しているところもあります。大阪府中之島図書館や八戸市立図書館をはじめ,都道府県立や市町村立を問わず公共図書館でも漢籍を所蔵しています。
通常は貴重資料扱いをされているため,手軽に見ることはできないものですがそれでも,利用者が求める資料がどこにあるかを調べるところまでは,どんな図書館のカウンターでも対応したいものです。
でも,なかなかむずかしいんですよね。図書館司書の資格を得るための必要な単位に,図書館資料論とか専門資料論などという名称の授業があります。そのなかで漢籍についての探し方を教えてくれます(講師によると思いますが……)。とはいえ,なかなか座学だけでは身につきません。
そういえばレファレンス協同データベースで漢籍に関連する事例ってどれくらいあるんだろうと簡易検索で「漢籍」と入れて検索してみたら,事例が33件,調べ方マニュアルが7件,特別コレクションが9件でした(2007/8/19現在)。何か勉強になりそうなものはと思って見ていくと,調べ方マニュアルに近畿大学中央図書館提供のものがありました。今回取り上げるものですが,よくまとまっていると思います。
順に見ていきましょう(一部省略しながら引用しています)。

1. 辞書・辞典類で探している資料の詳細を確認する。
まずは探している資料が「何時代」の「誰」の作品で、その作品は、「文章」「歴史書」「小説」「韻文(古詩・唐詩・詞・曲など)」のどれに該当するのかを確認します。この作業をして、次に見るべき資料を確定させます。もちろんインターネットでキーワード検索をするのも重要ですが、それで詳細がヒットしなかった場合は、下記の2つの文献を引くことが基本となります。

A. 『中国学芸大事典』 近藤春雄著 大修館書店 1978
開架 参考図書 222.0033-C62
開架 参考図書 920.33-C62
(注:「辞典」ではなく「事典」です。)

B. 『大漢和辞典』 全13巻 諸橋轍次著 ; 鎌田正,米山寅太郎修訂 修訂第2版 大修館書店 1999
開架 参考図書 813.2-D21-1〜13

(中略)

2. 1. の作業で解ったことをもとに、詳細を絞り込む。

(中略)

3. 叢書類を検索する。
                              
「そうしょ[叢書] 広い意味で同じ分野に関する事柄を同一の形式や体裁に従って編集・刊行した、一連の書物。シリーズ。」(『新明解国語辞典』 金田一京助[ほか]編 三省堂 1972 より引用)
いわゆる全集のようなものですが、漢籍の場合、非常に膨大な全集(『四庫全書』は、全7万8731巻もあり)があるので、OPACなどの所蔵データが対応しておらず、どの全集に所収されているのかを調べなければなりません。一番詳しいものは『中国叢書綜録』です。


4. 実際に書架に本を見に行く。
                             
3. までの作業で収録されている叢書が見つかったら書架(当館では主として本館書庫)に該当する図書を見に行きます。何種類かの叢書に載っている場合、一般的には、イ. 文字が大きいもの ロ. 目録や索引が巻頭あるいは巻末に載っているもの の2点を優先するのがよいでしょう。『四部備要』や『四部叢刊』などをよく使います。また、出版されたのが比較的最近のため前述の『中国叢書綜録』には収録されていませんが、『叢書集成新編』という叢書も多くの書物が集められていて便利です。前述した『四庫全書』は当館の場合、保存書庫(記念会館)に所蔵されています。    

5. 該当箇所を探す。
                                          
もし、書物の中の一文や、詩集の中の詩を探しているのであれば、延々と本を眺め探すことになります。探すときのコツとしては、ある漢字1文字あるいは2文字程度のキーワード(あまり利用頻度のなさそうな画数の多い字)を覚えておいて、それだけを探すというのが経験上、早いのではないかと思います。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.manual?id=2000001330

叢書編と名付けているくらいですから叢書に所収されているものを探すためのマニュアルですが,一般的な漢籍の探し方にも通じるものがあります。
このマニュアルは書き方がよくて,段階ごとに何をやればいいのか,何を参照すればいいのか,どこに動けばいいのか,ということがはっきりわかります。調べ方マニュアルはマニュアルですから,使う人が何をどうしていいのかわからないものは,内容がよくてもあまり役には立ちません。その点,このマニュアルはよくできていると思います。
この中に出てくる事典類のうち『中国学芸大事典』と『大漢和辞典』は漢籍調査の必須アイテムといっても過言ではありません*1。今のところ,インターネットでやみくもにキーワードをいれて検索するより確実に必要な情報にたどり着けます。
漢籍で一番ややこしい(と個人的に思っています)のが,叢書という概念で,もとめる資料がどの叢書のうちのどれにあたるのかを特定する作業が思った以上に大変な場合があります。というのも,漢籍叢書は数十巻から数百巻で構成されているのが普通なため,母数が非常に膨大なのです。このマニュアルにもありますが,『四庫全書』は,全7万8731巻もあります。四庫全書に所収されていることがわかっても,そこから先がわからないと,実際に資料を入手するには至りません。叢書のレファレンスブックに『中国叢書綜録』がありますが,中国語のため探すのに慣れが必要です*2
どの叢書のどれをみればいいのかが特定できて初めて書架にいきます。このマニュアルのいいところに複数の叢書に収められている資料について「一般的には、イ. 文字が大きいもの ロ. 目録や索引が巻頭あるいは巻末に載っているものの2点を優先するのがよい」というような所までフォローしているところです。これは当たり前なのですが,見つかった嬉しさのあまりつい忘れがちなのできちんとしておきたいところですね。
また,ブラウジングするときのコツとして「探すときのコツとしては、ある漢字1文字あるいは2文字程度のキーワード(あまり利用頻度のなさそうな画数の多い字)を覚えておいて、それだけを探すというのが経験上、早いのではないかと思います。」ということも書かれています。なるほどなぁと思いました。
何故いきなり漢籍を取り上げたのかというと,個人的な事情がありまして。nachumeの勤めている図書館にも相当数の漢籍があります。未だに整理が終わっていないものもあります。少しずつ整理計画を立てるべく,nachumeは上司から漢籍講習会へ行ってこいと命を受けまして,10月初旬に京都大学で行われる講習会に参加することになりました*3。自分の知識の再整理もかねて,レファレンス協同データベースで事前勉強中なのです。また,昨年に引き続き9月にとある企画で一コマの郷土史に因んだ講義を行うことになりました。地域郷土資料の係にいるため,もともとこの手の知識は必須なのですが,そういう事情も加わって,最近典籍について勉強せざるを得ないというわけです。地域郷土資料の係は郷土史に偏ってばかりではいけないと思いつつも,自分の経験にも有益だし,「ま,いっか」といろんなものを引き受けています。身体は丈夫ですのでまだまだ大丈夫。
というわけで,ごめんなさい。最後は日記みたいになりました。
図書館によっては,漢籍を探すというのはレファレンスの頻度としてはそれほど高くありません。でも,すくなくとも,漢籍資料を所蔵している図書館であれば基本的な漢籍の知識と探し方を覚えておくといいでしょう。

*1:この2種はレファレンスブックとして規模の大小にかかわらず,どんな公共図書館にも所蔵されて欲しいと個人的には思います。

*2:nachumeはうまく使えません……

*3:nachumeと握手したい人(笑)はぜひご連絡を!