京都議定書で取り決められている目標が、達成できない場合のペナルティについて知りたい。

猛暑日」なんていう定義がなされるほど暑い日が続きます。立秋も過ぎて,少しは落ち着くかと思いきや……。
環境に関するレファレンスです。環境に関するレファレンスは,小学生から年配の方まで幅広い方から受けています。よかれ悪しかれ関心が高い分野であるだけに,ライブラリアンとしては,概略をきちんと押さえておきたい主題です。
今回は環境に関するものではありますが,キーワードの選択という点でも参考になります。回答と回答プロセスです。

<回答>
自館所蔵の『環境白書(平成17年度版)』p3の「表1-1-2マラケシュ合意の概要」に‘目標を達成できなかった場合は、超過分の1.3倍を時期目標に上積み’との表記あり。
オンラインデータベースであるJapanknowledgeで「京都議定書」を検索。時事用語辞典『imidas(イミダス)』の解説文中に‘削減目標を達成できない場合には、次の約束期間(13年以降)で未達分の30%を追加した削減義務負い、そのための順守行動計画を策定するほか、排出権売買の資格も停止される。’との表記があり、排出権についても触れられていた。
Google環境省、外務省ホームページのサイト内検索から検索したところ、「気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)京都議定書第一回締約国会合(COP/MOP1)概要と評価(11月28日−12月9日 於:モントリオール)(参照URL:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop11_2_gh.html)」がヒットし、上記と同様の説明が記載されていた。

<回答プロセス>
最初は、新聞データベースで検索してみたが、より詳しい内容を知るために、環境白書や時事用語を調べることができるオンラインデータベース、そして省庁ホームページなどを案内した。ただし、Googleで検索する場合に、「ペナルティ」に代わる検索キーワードを選択するのに多少手間取った。

(引用中の引用「時期目標」は「次期目標」の誤り)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000033042

京都議定書では温室効果ガスの削減目標値が明記されています。日本は6%の削減を目標にしているため「チーム・マイナス6%」(www.team-6.jp)という取り組みもあります。クールビズもその一つ。削減目標に向けて取り組みが盛んです。
当然,「守れなかったらどうなるの?」という疑問がわきますよね。目標を達成しようというばかりでは,モチベーションの維持がむずかしい。守れなかったときのことも知っておきたいですよね。当然なにかしらのペナルティがあるはずです。そうじゃないと,目標達成しなくてもいいや,と考える国や地域が多くなりそうですから。
さて,こんな時にはレファレンス。
何を最初に手にするか,はいいですよね。環境白書でしょう。京都会議は平成9年でしたから,少なくともそれ以降のもの。京都議定書の発効は平成17年2月です。この事例にもあるように,平成17年版は京都議定書の発効にあわせて,第1章を充てています。それ以外の年度版の環境白書でも何らかの形で京都議定書に関して触れられています。こうしてみると案外あっさりと見つけることができますね。
そして,これだけで終わらないところがすばらしいです。オンラインデータベースである Japan knowledge を引いて,ほかに情報が無いか探しています。そこでは「排出権」についても触れられていました。排出権は温室効果ガスの排出枠を売買するというもので,経済的手法と呼ばれているものです。
回答プロセスをみると,環境白書やオンラインデータベース,省庁のWebサイトなどを提供していることがわかります。新聞のデータベースを探しているのもとっかかりとしては間違っていません。新聞記事には解説記事も多く,概略をつかむのに有益な記事に出会うこともよくあります。
プロセスの中に「「ペナルティ」に代わる検索キーワードを選択するのに多少手間取った」とありますが,こういう情報は大歓迎ですね。誰かが手間取るということは,他の人も手間取る可能性が高いからです。事例に対して与えられたキーワードをみると,「罰則」「罰則規定」「不履行」となっており,いわれてみればなるほどと思いますが,パッと気付くかどうか怪しいですね。「ペナルティ」→「罰則」はいいとしても,「目標が達成できない」→「不履行」は思いつくかどうかにかかっていると思います。現在の情報検索においては,このような名詞化を行うことが効率のよい検索技術につながりますので,普段から意識しておくといいかもしれませんね。
ちょっとした苦労話も書かれていると他の人の役に立ちます。
すこし脱線して,環境問題に関するレファレンスの際にレファレンス・ライブラリアンとして覚えておきたいことをつらつらと書いてみます。
京都議定書の具体的な運用について定めたものを「マラケシュ合意」ということはキーワード選択で役に立ちます。そのほか,京都議定書が定められた京都会議は通称名で,正式には「気候変動枠組条約第3回締約国会議」ということ,会議の略称は「COP3」ということなどもキーワード選択で役に立つはずです。データベースを引くときは,通称名と正式名称の両方で引くことを忘れないようにしたいですね*1。もっとも環境関係の事典や現代用語事典などに載っていると思いますので,暗記事項ではありません。キーワードの選択に詰まったときに,事典類にあたってみるのをプロセスとして押さえておけばいいと思います。
もう一つ。「環境白書」は,平成19年版から「循環型社会白書」と合併して,「環境循環型社会白書」と改称しています。また,「環境白書」の前誌は「公害白書」です。「循環型社会白書」は平成13年版からです。このあたりの書誌変遷はライブラリアンはしっかり押さえておいてください。*2
また,自治体でも環境白書,環境報告書を刊行している,Webサイトで公開しているところが多くなりました。公共図書館のライブラリアンは国や世界レベルと同じくらい,自治体の取り組みについても動向を把握し,適切な資料収集が必要です。
このエントリが少しでも,公共図書館では夏休みの宿題に環境問題を選ぶ小学生から中学生,高校生,そして大学生のレポートなどでにぎわっていると思いますので参考になればと思います。

*1:ちなみに,「COP3」の正式名称は「The 3rd Session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change」です。 Welcome to COP3 Home Page を参照。外国語の文献を探すときなどはこちらもキーワードとして考える必要があります。

*2:存在しない年度の白書を探すということがよくあるんですよね……。