『本草綱目』の中の禽部第48巻、鶏の卵の部分を見たい。なるべく古いものがよく、できれば、『江西本本草綱目』の和刻本を見たい。卵の部分は、『新註校定国訳本草綱目』 第十一冊、p.237(資料1)に該当する部分で、『江西本本草綱目』は、『新註校定国訳本草綱目』の底本である『頭註国訳本草綱目』(資料2)の元となった本である。

今回も漢籍関係のレファレンス事例をご紹介します。
博物学科学史を勉強すると「本草綱目」という単語をよく目にします。このレファレンス事例では,本草綱目がどういったものかというプロセスは省略されていますが,これは元の質問者もレファレンスを担当したライブラリアンもわかっていたからレファレンス記録に残っていないのだと思われます。なにぶん予想でしかないのですが。
念のため簡単に解説をすると,「本草綱目」は中国明の時代に,李時珍が本草学(薬学)の集大成としてまとめた本草書です。本草綱目は日本にも伝えられ,本草学の基本書とされ,たくさんの和刻本(日本で出版されたもの)も多く出版されました。日本では,本草綱目の解釈をいかにするかが日本の本草学の中心となりました。本草綱目は中国の動植物を対象にしているので,中には当然ながら,日本には植生しない植物もありました。そういう点から調査したのが貝原益軒で,彼は日本に植生する植物を対象とした「大和本草」をまとめました。
という状況を踏まえつつ,この事例を見ると,ポイントとして,「『江西本本草綱目』の和刻本」というように,入手したい本草綱目の書誌事項が限定されていることです。
回答を引用してみます。

「全国漢籍データベース」(全国漢籍データベース協議会)http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/kanseki?detail
を<本草綱目>で検索したところ、当館では次の2点を所蔵。
(1) 『本草綱目 五十三巻』
 明李時珍東壁撰 稲生宣義若水校 京都唐本八郎兵衛 正徳四年一七一四 45冊 (諸橋文庫 499/MW/1)
(2) 『本草綱目五十二卷 本草綱目圖三卷 本草綱目拾遺十卷 本草萬方鍼線八卷 本草藥品總目一卷 瀕湖脉攷一卷 奇經八脉攷一卷 脉訣攷證一卷』
明李時珍撰 清呉毓昌校 清趙學敏撰拾 清蔡烈先撰萬.藥 民國元年刊 石印 鴻寶齋 24册 (特別買上文庫 特7322)
当館の冊子体目録『東京誌料分類目録 その1』(資料3)により、さらに次の1点の所蔵を確認。
(3) 『本草綱目』 
 明李時珍東壁撰 稲生宣義若水校 正徳四序 21冊 (東京誌料文庫 099/4)
資料4:第9回特別文庫資料展「本草博物学とその周辺」 p.2の展示解説によれば、その際に展示された(1)の資料について、以下のように記している。
「出陳本は、いわゆる『石渠閣版江西本』を底本として寛永十四年に和刻されたものの系統に属し、『若水本』または『新校正本』とも呼ばれ、和刻本の中では最も優れたものとされている。」
以上のことから(1)の資料を、『江西本草綱目』の和刻本とみなし、紹介した。該当部分は、その第35冊、第48巻21丁からである。
なお、(2)の資料は民国元年刊のもので、和刻本ではなかった。(3)の資料は、(1)と同版であり、刷りの状態はむしろよいが、書入れが多く、改装が甚だしいものであった。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000021680

一般的な資料の探し方として,まずは資料を特定するところからはじまりますが,この場合はすでに特定されていますから,版違いを中心に書誌事項の確認を行うことになります。
ここで用いられている「全国漢籍データベース」ですが,これはぜひとも覚えておきたいデータベースです。漢籍の所蔵調査には必須です。全国各地の漢籍所蔵機関の目録を電子化した総合目録です。今回紹介した事例は東京都立図書館の提供ですが,全国漢籍データベースには東京都立図書館の所蔵がデータ化されていますので,冊子体より素早く必要な情報にアクセスできます。この辺は所蔵データの収録館の強みですね。
検索の結果3点ヒットし,それぞれの書誌事項について,より詳しく調べ,何を提供したらよいのか,検討しています。検討にあたっては,自館の展示解説資料を用いている点もいいですね。展示を行うときには必ず事前調査をきちっと行いますし,解説資料なのでコンパクトにまとまっています。本来の目的は,本草綱目の江西本を提供することですので,それがどれなのか特定に至ればいいという割りきりのためのツールとして最適な選択だと思います。(1)を提供したとありますが,これを収めてある諸橋文庫というのは大修館の「大漢和辞典」を編纂した諸橋徹次氏の旧蔵資料です。
レファレンスとしては書誌事項をきちんと目録から読み取って行けば資料提供に辿り着くと思います。都立図書館以外の図書館で受けたレファレンスであっても,目録さえ丁寧に読み取ることができればそれほど困難さは無いかもしれません。が,如何せん漢籍は取っつきにくい分野であることには違いありません。数を経験すれば慣れてくるとは思いますが,なかなか実践するのもむずかしいので,レファレンス協同データベースの事例を自分なりに読んで勉強するのがいいと思います。自館資料でどこまで調査可能なのか,一度この事例を元にやってみるといいと思います。