「台風」と「ハリケーン」と「サイクロン」の違いは何か?

東日本を縦断していった今回の台風9号に関して被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げます。
台風に因んだレファレンス事例をご紹介。よく聞かれるのタイプの質問ですし,ニュース解説などでも頻繁に取り上げられているものだと思いますので,なにも見なくても答えられるライブラリアンもいるはずです*1。しかしながら,それでは資料の提供が伴わず,レファレンスとはいいません。なまじ答えを知っていると,いざ資料を提供するときに,「どの資料に載っていたっけ?」とか「気象学事典??」などと一瞬足が止まってしまう可能性のあるレファレンスです。
そんな時にも,落ち着いて,資料を探します。回答と回答プロセスを引用していきます。

<回答>
「台風」も「ハリケーン」も「サイクロン」も同じ熱帯低気圧の仲間である。
熱帯低気圧は発生海域、最大風速により名称が異なる。
  「台風」 主に南シナ海北太平洋西部に発生、最大風速17.2m/秒以上
  「ハリケーン」 北大西洋北太平洋東部で発生、最大風速32.7m/秒以上
  「サイクロン」 インド洋や南太平洋西部に発生、最大風速32.7m/秒以上
ちなみに
  「タイフーン」は北太平洋西部に発生した最大風速32.7m/秒以上の熱帯低気圧のこと。「台風」はもともと英語のtyphoonの読みに漢字を当てはめたものらしいが、「タイフーン」と「台風」の定義は異なる。
 オーストラリア付近では「ウィリウィリ」という呼び名もある。

<回答プロセス>
気象関係の本と考え、まずNDC451の一般書の書架に向かい気象関連と思われる本を見たが、名称についての記述はあまり無かった。そこで、案外児童図書の事典や科学のQ&A本(NDC407あたり)にあるかもしれないとあたてみたら、図付きで解説のある本を発見。
 風力が係ってくるようなので、一般書にもどり風力の本も見たところ、名称についての記述があるのを見つけた。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000024038

秀逸なプロセスだと思います。レファレンスのステップをきちんと踏んでいます。
第一段階として気象関係の書架ブラウジング。参考図書があれば気象関係の事典類にあたるのがまず最初の一歩です。ところが,あまり思わしくない。蔵書構成の問題もあるかもしれません。が,自館で解決できる可能性はすべて試してみる必要があります。NDCの451は「気象学」です。
第二段階には児童書にあたっています。この児童書にあたるというのはよく使う手ですね。児童書とはいえ適当なことは書けませんし,といって小難しい記述では児童対象の本にはなりません。そのあたりを逆に利用して,大人であっても,児童資料を調査のとっかかりに用いるという手は決して悪いことではありません。巻末には参考文献の一覧が付されていることも多いです。
また児童書のあたりの付け方も,いわゆる事典類や気象学以外の棚も見ています。NDCの407は「自然科学 研究法.指導法.科学教育」です。このあたりに目を向けるところも取りこぼしがなく,さすが! と言えます。
児童書により,ある程度あたりがついたところで,一般書に戻っています。このあたりもしっかりしていますね。児童書で答えが見つかったのでおわり,とせずに,資料を探しているところはすばらしいです。風力に関係がありそうだということがわかったため,今度は気象関係以外に風力に関係するところをブラウジングしています。NDCでいうと451.4が付与されます。気象学の近くにあるものですね。
まったく質問された事柄に疎くても,きちんとしたプロセスをたどることにより,資料の提供は可能です。逆に,質問された事柄に明るくても,きちんとしたプロセスをたどらないと,資料の提供は難しいのです。このあたりはレファレンスの本質的なところと言えます。
もちろん,このレファレンスの回答自体はgoogleでキーワードに「台風 サイクロン ハリケーン」と検索すれば詳しい情報は得られますでしょう。ただ,それ以上に,図書館で情報を入手するとう観点からこの事例を読んで欲しいと思います。
この事例提供館は奥州市立水沢図書館です。このような定番レファレンス(というと軽く見られがちですが,レファレンス・ライブラリアンが誰しもきちんと回答できなくてはならないものなので,実は侮れないタイプのレファレンス)をもっと提供してくれるとありがたいですね。忙しいとは思いますが,期待しております!

*1:突き詰めていくとややこしいのですが……。cf. デジタル台風:台風(タイフーン)・ハリケーン・サイクロン