「不撓不屈」という言葉の出典元を知りたい。また、該当部分の解釈(日本語)を知りたい。

月末に市民講座を一コマ担当するという極めて個人的な事情により,最近中国書について調べる機会が多いnachumeです(変な書き出しですね)。
なので,ついレファレンス協同データベースをのぞくときにも,漢籍や中国の故事成語なんかを検索してしまいます。いろんなの事例がありますねぇ……としみじみしています。
回答と回答プロセス,参考資料を引用します。

<回答>
『列伝』2巻 p.490に掲載がある。

<回答プロセス>
(1)以下の資料では出典情報は得られなかった。
 ・『世界の故事・名言・ことわざ』
 ・『故事成語名言大辞典』
 ・『成語大辞苑』
 ・『成語林』

(2)『新明解四字熟語辞典』、『大漢和辞典』より『漢書』の「叙伝下」が出典であることがわかる。

(3)『中国史研究入門』上p.197より、漢書の全訳本として小竹武夫著『漢書』があることがわかる。

<参考資料>
列伝 2 / 筑摩書房, 1979. -- (漢書 / 班固〔撰〕;小竹武夫訳 ; 下巻)(*222.042*K1(O)*3)
新明解四字熟語辞典 / 三省堂編修所編. -- 三省堂, 1998 (N8R*813.4*4)
大漢和辞典 巻1(R*813.2*M1*1(2)-1)
世界の故事・名言・ことわざ : 総解説. -- 改訂新版. -- 自由国民社, 1999(N8R*813.4*3)
故事成語名言大辞典 / 鎌田正, 米山寅太郎著. -- 大修館書店, 1988(R*813.4*K5*1)
成語大辞苑 : 故事ことわざ名言名句. -- 主婦と生活社, 1995(N8R*813.4*1)
成語林 : 故事ことわざ慣用句 / 旺文社編. -- 旺文社, 1992(R*813.4*S4*1)
国史研究入門 / 山根幸夫編;山根幸夫[ほか]執筆 ; 上. -- 山川出版社, 1983(*222*Y4*1-1)

(丸囲み数字は引用時に括弧付き数字に改めた)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000023700

四字熟語というか故事成語というか,レファレンスの類型としては言葉の出典探しとでもいうのでしょうか。それなりに需要の多い形のレファレンスだと思います。
ただ,レファレンスの回答としては,あくまでも,「この資料には出典がこう書いてある」という言い方しかできません。何度も書いていますが,レファレンスの原義は参照です。
そのあたりを踏まえつつ,回答プロセスを見ていくと,きちんとそのあたりのことを意識して回答していることがわかります。
第一段階として,四字熟語辞典や成語辞典などで,探す言葉を調べ,出典が出ていないかを調べています。このときに,出典が出ていなかった辞典も同時に記録しておくことは大事です。これはレファレンスの追試可能性をより明確にしておけます。また,出典が一つの辞典に依拠するだけでなく,複数の辞書に依拠していることもポイントです。このあたりもすばらしいですね。
第二段階としては,出典の資料を探すところですが,今回は『中国史研究入門』から,『漢書』の全訳の存在を得ています。中国書の文献解題となると『中国学芸大事典』が有名ですが,この山川出版の『中国史研究入門』もなかなかよい参考資料です。上下2冊ですが,史料解題がついています。これはかなり便利なので,パッと手にして調べるにはちょうどよい参考資料です。このときに,漢籍そのものを必要としているのか,翻刻・現代語訳などで用が足りるのか,などは確認しておく必要があります。漢籍そのものだと,書誌事項などの確認も必要ですが,この事例では日本語による解釈が必要という要求がありますので,そこは回答には関係ありません。
あとは第三段階。資料を実際に提供するだけですので,自館で調達できれば自館資料を,無ければ所蔵館を紹介し,相互貸借などILLを案内することになります。この段階は通常のプロセスですので,特に問題は無いと思います。
この事例は流れるようなプロセスというか,無駄のないプロセスを経て回答に至っています。レファレンスのお手本のような事例です。必要以上に踏み込まず*1,ずばりこの一冊的な参考資料を元に,質問者への資料提供を行っています。
こういう事例を見るとすごいなぁと思います。レファレンス・ライブラリアンの真骨頂といってもいいのではないでしょうか。
この事例を登録している関西大学さんは提供している事例はそれほど多くはありませんが,粒ぞろいですよ!

*1:この手のレファレンスは嵌ってしまうと利用者に替わって,レファレンス・ライブラリアンが調査研究してしまう危険性を持っています。そういう意味で,レファレンスの本来的機能を発揮している事例です。