第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムに参加したよ

先週2月20日,第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムが行われました。今回から,フォーラムのタイトルに「参加館」という言葉が含まれておらず,レファレンス協同データベースのこれまで以上の拡がりを感じるものでした。
詳しいことは,そのうち記録集が公表されるはずですので,それを待つことにして,個人的に印象に残った点をプログラム順に書いてみようかと思います。さすがにすべてについて触れられませんので,当日の自分のメモを元に,各プログラム項目から,一つないし二つ程度簡単に触れていきます。

  • 事業報告

年度の事業報告というのは大抵の学会やフォーラムでは,それほど大きなトピックとして取り上げるほどのものは通常ないのですが,今回は,個人的に「御礼状送付」が印象的でした。これは,累積データの登録件数・年間データ登録件数・年間データ被参照件数について一定基準を満たした参加館に国立国会図書館長から礼状が届くというものです。単に御礼状なのですが,なんというかこれは実際に届いたら,その図書館は嬉しいと思います。言葉にするとものすごく単純なのですが,モチベーションを維持するのにとてもこういう御礼状というのは効果的だと思うのです。このブログでもレファレンス協同データベースへ事例提供している図書館やライブラリアンを応援しているのですが,如何せん私は一介の図書館員に過ぎません。国立国会図書館長から御礼状が来たということはきっと大きな励みになり,意外に効果は大きいと思います。そして,もう一つ。この御礼状のための基準は,点数制で事例の公開レベルに重みがつけられていることにも注目しておくべきかと思います。

いくつか考える論点があったと思います。中でも,個人的には,図書館でのサービスにおいて,レファレンスサービスを中核とした場合,従来の業務(ワークフロー)の再編に繋がるという指摘は重要なものと考えています。どのようなサービスであっても,利用者の実際の活動に還元されて初めて有用なサービスになります。例えばビジネス支援というサービスは利用者の行動は図書館でのみ完結するものではありません。実際にビジネス活動を利用者が行うことが本来の目的ですから,図書館はあくまでも利用者行動の一フェーズに携わるだけです。この事は,逆に考えると,図書館でできることは何かという点が非常に重要なわけで,ビジネス活動サービスを例にするまでもなく,他機関との連携という点は必ず考えてサービスを組み立てる必要が出てきます。「図書館のサービスって何だ?」「図書館はどこまでサービスの対象とするのか?」という問いが必ず発生するわけです。必然的にこのことは従来的なレファレンスのサービスを再編する必要がどこかで生じます。もちろん,変えなくていいところ,維持しなくてはいけないものはありますが,新たにサービスを組み立てる場合,特に,図書館以外の機関と連携するという点を視野に入れる場合,業務の再編というのは必ず検討されるべきであろうと私は考えます。

  • 報告(1)「香川県立図書館におけるレファレンス協同データベースの活用」香川県立図書館 藤沢幸応

香川県立図書館の実践報告。まさに実践報告で,日常的にどのようにして,レファレンス協同データベースを業務に組み込んでいくかという所を実例で示されていてよかったと思います。参加館の課題の一つは日常的にレファレンス協同データベースへのデータ登録などデータのメンテナンスを行うにはどのようにワークフローを組み立てればよいかというものだと思います(私の勤務する図書館でも課題です)。この点,レファレンス協同データベースが実験事業だったころから,参加していた香川県立図書館の報告は具体例の一つとして,応用可能なものと言えるのではないでしょうか。

  • 報告(2)「ワンパーソンライブラリーの可能性」紙の博物館図書室 竹田理恵子

前から,とても楽しみにしていた報告です。タイトル通り「ワンパーソン」=1人の図書室でのサービスについての報告です。レファレンス協同データベースをうまく利用し,図書室での処理フローに用いたり,コメント機能による未解決事例の解決といった「協同」についての話はとても参考になりました。竹田さんの発表に限らず,どの発表者も触れていましたが,レファレンス協同データベースをうまく広報に利用することも大事なのだと改めて思います。利用者へのアピールはもちろんですが,それぞれの館の上位組織へのアピールも重要な広報活動の一つです。ワンパーソンでできることをレファレンス協同データベースはさらに拡げているように思います。

大学図書館からの報告です。沢山のヒントがちりばめられた発表内容でしたが,一つあげるとすれば,「事例作成は”感想戦”である」という所です。神奈川大学では事例をまとめるにあたって,調査プロセスを徹底的に記述する方針を採っているとのことでした。ウィルソンの情報探索モデルやクルートーのそれを引用しながら,前述の「感想戦」へと続くのですが,これは言い得て妙だと思いました。感想戦は将棋や囲碁で対局後に一手ずつ再現しながらその戦術を検討していくものなのですが,レファレンス協同データベースに提供される事例はまさに実際のレファレンスの記録を集成したものですので,そのプロセスの記述はまさに「感想戦」です。何をして,何を提供したのか,あるいは何を提供できなかったのか,というレファレンスプロセスを振り返ることは,事例作成者のレファレンス能力を格段に向上させるものであることは間違いないと思います。

午後の部はパネルディスカッションです。話題提供ということでまず木下さんの発表があり,大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)の経緯についてもいろいろと考えることもありました。この発表につづき,レファレンス協同データベースを広報に,研修に,と様々に活用できる可能性を各パネリストの方々が話題を提供してくださいました。会場で収集された質問を適度に交えつつ,進められたのですが,広報や研修といったレファレンス協同データベースの活用を中心とした話題はもちろんですが,レファレンスとは,あるいはレファレンスサービスはどのように評価されたらよいかという大きなトピックにも触れられ,かなり多岐にわたる展開でした。
広報という点では,どこへアピールするかということと,どのようにアピールするかということを戦略的に行うことが大事だということにつきるのではないかと思います。これは図書館関係に限らず,どのような業種・業態・業界にも言えることでしょう。
研修ということで,個人的に面白い取り組みだと思ったのは,レファレンスブックからレファレンスの質問を作り出し,他の職員がその質問をもとにレファレンス演習を行うという研修を行っている木下さんの発言でした。一般にレファレンス演習は,過去の質問をもとに,仮想的にレファレンスプロセスをたどり組み立てていくものが多いのですが,これは逆のアプローチです。しかしながら,私はこれはとてもすばらしい取り組みであると考えています。とあるレファレンスブックから,質問文を作り出す能力というのは,そのレファレンスブックからどのような課題を解決できるかを理解し,自分の思考プロセスに組み込む能力です。これまで莫然と思っていたものでしたが,レファレンス研修に携わる機会があったら,是非やってみたいと思いました。
レファレンスサービスとは,とかレファレンスサービスの評価とは,という大きなトピックについては,議論は基本的に拡散するものですから,各種意見が出たということになろうかと思います。その中でいくつか自分が感じたことを挙げると,レファレンスサービスの評価は定性的なものであり,その定量的評価を無理に編み出す必然性は少なく,具体例を(レファレンス事例など)もって,どのような点で良いか,どういう効果が得られたのかを確認することが重要であろうという点です。特に「どういう効果が得られたのか」という点はともすれば,見落としがちな視点ですので,これはレファレンスサービスの広報にも取り入れたい視点だと思います。
そのほか,クエスチョンポイントの動向や,レファレンス協同データベースをプラットフォームにした研修など興味深トピックも話題に上がりました。
当然のことながら,決着がつくようなテーマではありません。議論を考えるためのトピックをいくつも提示してもらったという所で,非常に良かったと思います。そして,いつもながら,コーディネータの山崎さんのまとめは上手だなあと感心しきりです。私も見習いたい所です。
パネルディスカッションだけではありませんが,事例をインターネットで公開すると,検索エンジンで直接個別のリソースへアクセスされることが相対的に多くなります。当たり前のことですし,検索エンジンとはそういうものです。こういう部分をもっと意識した書き方というのもあるのかなと個人的には思っています。紙の博物館の竹田さんは,ブログで事例紹介をしているのですが*1検索エンジンを意識した文章の書き方をしているという事は非常に大きいものと思っています。インターネット上の電子テクストはテクストの構造化と相対化を同時平行的に行うことができることを本来的な機能として内包しています。冊子体に文章を書くのとは質的に若干異なるはずです。具体的にどこがどう違うのかというのは,考察を必要としますが,図書館で事例紹介をする場合には意識したいポイントの一つだと思っています。


ということで,レファレンス協同データベースのフォーラムに参加して思ったことや覚えておきたいことをメモとしてだらだらと長く書いてみました。昨年とはまた違う示唆が得られたように思います。あ,そうそう,昨年の登壇者が全員そろっていました。これもすごいですよね。事務局の皆さん,登壇者の皆さん,関係者の皆さん,会場でお会いした皆さん,お疲れ様でした。そして,ありがとうございました。

*1:「図書室の窓から 紙博図書室日記」id:kamihaku