どうして馬車は牛車に比べ、あまり日本では発達しなかったのか。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000028343

交通史、日本史の資料では、膨大な資料で手がかりの予測がつかないため、件名「馬」より検索して調べる。
『馬たちの33章』早坂昇治/著(緑書房)第22章「轍の文化・馬車の謎」に、同じ質問と回答(著者の考察)が記載があり。
なぜ「日本には馬車文化が入ってこなかったのか、なぜ馬車が出現しなかったのか」という疑問に対し、主に以下の理由があげられている。以下、要約
(1)日本に伝ってきた馬文化は、朝鮮半島経由で伝わった騎馬民族郷土の文化で、ヨーロッパの戦車中心の文化とは違い、騎馬を中心に勢力圏を拡大した文化であったこと。
(2)日本には野生馬を含めて馬の数が少なく、非常に貴重な動物であった。それゆえに「神馬」というように権力者の象徴となり、これに荷を牽かすという発想は生まれなかった。
(3)日本は多湿の海洋性気候のため、年間を通じて雨が多く河川も多い。また火山列島のため山地が多く、江戸時代に街道が整備されたとは言え、馬車を自由に走らせるスペースは少なかった、という気候と地形の問題。
(4)時代が変わっても高価な動物であることに変わりはなく、平民の乗馬は明治まで許されず、牛−公家、馬−武士のものとされていた。また江戸時代には戦略上の理由から、馬や車の使用について厳しい規制があり、馬車の登場する余地はなかった。
このような理由から、比較的早い時代に万が一馬車文化が入ってきたとしても、普及する余地がなかった、と記載されている。
(…後略…)

関係ありそうな資料が膨大すぎて,手がかりの予測がつかない場合,レファレンス・ライブラリアンの腕の見せ所です。いかに絞り込むか,すなわちそれが,"Save the time of the reader"*1につながるのです。
この事例は,馬車と牛車の発達についての調査です。nachumeだったら,まず,日本史の中で馬車について探すより,交通史の中で馬車を探す方がより適当と考えて,運輸・交通について見るでしょう。それで,やっぱり書棚にはたくさん資料があって,どれに書いているんだかわからないし,見てると時間がかかりすぎる,と早々に次の手を考えると思います。
このレファレンスを担当したレファレンス・ライブラリアンは件名に「馬」をもつ資料をあたっています。
「件名」とは図書館が資料を整理するにあたって,その資料の主題を示す言葉のことです。件名があることにより,主題アクセスが効率的に行えるようになります。それは件名が統制語であることと,参照形をもつことによります。統制語とは,件名に使う言葉がある一定の規則の下に予約された語であり,勝手に作りだすことができない仕組み,参照形とは同義語を一つの件名へまとめる仕組みを言います。このあたりはまた後日紹介する事例でも触れることがあるでしょう。主題アクセスに非常に有効な仕組みであるということは覚えておいて損はありません。
ただ,件名に「馬」を持つ資料もそれなりの数に上ると思いますが,どうやって絞っていったのでしょう*2。書架をブラウジングして,「それっぽい」資料をめくっていったのでしょうか。レファレンス・ライブラリアンって不思議と「それっぽい」資料を手にするんです。背表紙の様子,装丁,出版社,刊行年,端書き,目次,など資料を見て「あ,これかも」という瞬間があるんです。
この事例のように,求める情報がありそうな資料群の母数が多い場合,いかに絞るかが,レファレンス・ライブラリアンのセンスです。非常にすばらしいセンスを持っていると思います。nachumeも負けずに,レファレンスのセンスを磨こうと思います!

*1:ランガナタンの図書館5原則の一つ

*2:2007.3.4現在 市川市立図書館のOPACで件名「馬」を引くと83件あります