江戸時代の一両の価値は現在のいくら位か。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000013860

「バブルの末期から”一両は今の十万円”という比較が親しみを込めて説明されています」が、現代と当時とでは社会状況が全く異なることを思えば、「一両は何万と想定することは無理」(『お旗本の家庭事情と暮らしの知恵』小川恭一,つくばね舎,2105/1056/99より)と考えます。つまり、江戸時代の貨幣価値を現代に置き換えるのは不可能とお答えするほかありません。
  おおまかな目安で良いという場合は、『時代考証辞典』(稲垣史生著,新人物往来,2105/11/91)にもあるように、米などの物価を基準に推察する方法があります。『江戸物価事典』(小野武雄著,展望,3221/62/79)などをご参考ください。『江戸時代館』(小学館)に文化文政期に一両で買えるものが列挙してあります。ただし、大工の日当からだと一両=30万、かけそばからで15万(『大江戸「懐」事情 知れば知るほど 』小林弘忠/著 実業之日本社 2105/1160/3)など、換算する対象によって幅があり、時代によっても大きく異なるので、あくまでも目安として考えることが必要です。
  江戸時代の貨幣制度については『お金でさぐる日本史2』板倉聖宣監修松崎重広著,国土社,2100/439/5)『お金の玉手箱』(国立歴史民俗博物,M35/KO-2/70)『かねは天下のまわりもの江戸時代の貨幣制度をさぐる』(千葉県立関宿博物,M35/CH-17/8)等に比較的平易に述べられています。(追記2006/1/12)

今回も専門図書館のレファレンス事例からご紹介。上記の問いは公共図書館でも聞かれることが多いのではないでしょうか。一両のところが,小判だったり,石高だったりというバリエーションはあるかと思いますが。
この事例でわかるのは,「江戸時代の貨幣価値を現代に置き換えるのは不可能」という点です。このような回答は専門図書館でしっかりなされるとありがたいです。公共図書館だと,もっと他にも資料があるかも……と考えてしまい,「うちにある資料だけでは何とも言えないですねぇ……」なんて曖昧な回答になってしまうこともあり得るでしょう。
ただですね,質問者に回答不可能な回答をいかに伝えるか,は結構悩みどころです。うやむやになんとなくフェードアウトすることもあるかもしれないけれど,レファレンスは本来なら,「○○には〜〜と書いてある(あるいは,書いていない)」というような回答をすべきです。なかなか難しいんですけどね。
そういう意味で,「厳密に換算するのは不可能だけど,大まかな目安ならあるよ」と回答するのは「不可能です」とだけ答えるよりスマートです。回答には,どういう風に換算しているかの根拠が載っているものをあげているところも,やはりレファレンスの基本をきっちり押さえていると言えましょう。
そして,もう一つ。この事例には追記されたデータがあります。比較的平易に解説された参考資料を追加しています。前にも言いましたが,レファレンスは追試できることが重要です。この事例のように,そもそもの回答が成り立たないが,代替の回答が存在する(変な言い方だな……)時に,より充実した参考資料群があると,類似した調べ物の先行材料として良質のものになっていくのです!