「秋篠宮殿下の博士論文」について。

今回はすこし趣向を変えて,事例を追いかけつつ,調べ方マニュアルもにも目を向けてみます。
まずは事例から。国立国会図書館の協力レファレンスです。

『平成皇室事典 新版』(主婦の友社 1999) p.135によれば、秋篠宮殿下に理学博士号を授与したのは国立総合研究大学院大学、授与日は平成8年9月30日。論文題目は宮内庁ホームページの「天皇皇后両陛下・皇族方のご活動」の項に、”Molecular Phylogeny of Junglefowls, genus Gallus and Monophyletic Origin of Domestic Fowls (野鶏ガルス属の分子系統および家鶏の単系起源)”との記載がある。

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当館で所蔵しています。<請求記号:UT51-98-V138> (2005年11月14日追記)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000014198

ちゃんといつ追記したかが書かれています。レファレンスは後追いができるのです。その時点で解決できたこと・できなかったことを明らかにして記録しておくことが追試を有効なものにしています。レファレンスは決して職人芸ではありません。
皇族の方々には学術に打ち込まれる方がかなりいらっしゃいまして,秋篠宮殿下も博士号を10年前に取得されています。
国立国会図書館には博士論文が所蔵されているのですが,探すのにちょっとしたコツがいります。博士論文は「博士号を授与した大学の授与番号を持っている」とか「一人の人が複数の博士号を持つ場合,当然その学術分野ごとに審査を受けた博士論文がある」とか,仕組みそのものを知っていると探しやすいのです。
そういう仕組みは誰が教えてくれるのでしょう? 「博士論文の仕組みについて解説した本が欲しい」とレファレンスを依頼してみてもかまいません。図書館の司書が資料を提供してくれるでしょう。でも。もっと手軽に! と思いませんか? そんな時に探してみてほしいのが「調べ方マニュアル」です。
レファレンス協同データベースには個々のレファレンス事例の他に,もっと一般的に何かを調べるときの手順をまとめた「調べ方マニュアル」がいくつも公開されています*1。この調べ方マニュアルは読んでいるだけでも,勉強になりますし,レポートを書いたり,報告書をまとめたりというときに非常に強力なサポーターとなってくれます。
さて,では国内博士論文の調べ方マニュアルを見てみましょう。国会図書館が作成した調べ方マニュアルです。

■概要■
・博士論文とは
博士号取得のための学位請求論文で、重要な研究業績の1つに数えられます。
新進研究者による先行研究分析、斬新なアイディアとしても利用価値のある資料です。
・所蔵概要
国立国会図書館では帝国図書館から引き継いだ大正12年9月以降の国内博士論文約45万人分を所蔵しています。(平成18年1月末現在)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.manual?id=2000000936

「博士論文とは」という概要から始まり,NDL-OPACでの所蔵確認,冊子体目録の紹介,古い時代の博士号を探す方法,さらに,インターネットを利用した博士論文の探し方,というように,国会図書館で完結せず,ひろく博士論文に関する情報を得るための手段が解説されています。
非常に丁寧に書かれているため,国内の大学で博士号を取得した論文はこのマニュアルを試してみればかなり入手が楽になると思います。
日本においても,各大学が機関リポジトリ*2を設置し始めています。つい最近だと,東北大学が本格運用を始めました*3。博士論文を始め,各種学術論文がリポジトリに登録されることによる学術活動の活性化に寄与するのではないでしょうか。
調べ方マニュアルの登録数は,レファレンス事例に比べて少ないですが,非常にためになります。調べ方マニュアルは図書館の現場で生まれたものです。なぜ調べ方マニュアルが生まれたかというと,そこにはたくさんのレファレンス事例があったからです。似たような質問,ある主題に関して寄せられるたくさんの質問に,レファレンス・ライブライアンが資料提供を重ねていくうちに発生したものです。たくさんのレファレンスに裏付けられた調べ方マニュアルが強力であるのはそれなりの理由があるのです。
図書館の持つ力は侮れません! 今後も,調べ方マニュアルをほめまくります!

*1:ちなみに,「調べ方マニュアル」は一つの呼び方で,国会図書館のサイトでは「テーマ別調べ方案内」と呼ばれています。大学図書館などが提供する場合は「パスファインダー」ということが一般的でしょう。最近では公共図書館も作成していることが多くなってきました。いずれも,ある特定の主題について,関連する資料や探し方の手順等が書かれています。

*2:学術研究機関が主にその所属・構成員の知的生産物を電子的形態で収集・保存・公開するために設置する電子アーカイブ

*3:TOUR http://ir.library.tohoku.ac.jp/ 2007.3.5から正式運用。