『民法判例百選』 I 第5版 p.129 掲載の原島重義「「対抗問題」の位置づけ」九大法学 33巻3〜6号 43頁を探している。

レファレンスで最も多いのはこのような問い合わせではないかと思います。利用者が論文や新聞記事など,持ってきた情報から書誌事項を探っていくタイプです。
「書誌事項」とは資料を特定するために必要な事項のことで,通常は「タイトル」「著編者」「出版社」「出版年」などです。これらがわからないと一体求めている資料がなんなのか判明しません。レポートや論文,報告書に参考文献を入れるときには,こういった要素を入れて記述すると思います。書き方はそれぞれ学術分野ごとに違っていることが多いので一概にこういうものだとは言えませんが*1
問題なのは,利用者の持ってきた情報源に誤りがあるときです。これは探してみないと誤りであることがわからないので,厄介なのです。
というわけで,回答です。

九大法学 33巻3〜6号 43頁には該当する論文が掲載されていなかった。雑誌記事索引で検索し確認すると、雑誌名が法政研究(九州大学法政学会)の誤りだった。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000013949

あっさりしていますが,資料の現物にあたって見つからなければ,次の手を考える,という定石をきちんと行っています。図書館では「見つかりませんでした」で終わることはまずありません。
このレファレンス・ライブラリアンは利用者の持ってきた情報源は明らかに雑誌記事を指していると考えられるので,NDL-OPAC雑誌記事索引を引いています。タイトル「「対抗問題」の位置づけ」でも,著者「原田重義」でも良いですが,回答の通り,『法政研究』に掲載があることがわかります。これは明らかに情報源である記事の間違いでしょう*2
さて,少し書誌事項についてもう少し解説を。
「33巻3〜6号」て一体なんのことだろうと思いませんか? パッと見ると4冊あるのかしら? なんて考えてしまいます。1冊の資料は1つの巻号を持つのが雑誌(継続資料)の原則です。ということは巻号が4つついている資料は原則から外れています。この場合,考えられるのは合併号であるということ。週刊誌などで祝日を挟むと2週分合併号として発売されることがあります。そういった場合,物理的な単位としては1冊なのですが,巻号として数えると2号なので,1冊に2つの巻号がつくことがあります*3
nachume はこの『法政研究』の現物を見ていないので,目録からしかわかりませんが,合併号で巻号が3〜6までついているのだと思います。
誤記・誤植は意外と多くて,そのために見つかりそうで見つからない資料がたくさんあります。見つかると妙に嬉しいんですよね。『九大法学』も『法政研究』も両方とも,九州大学の冠がついているので間違え方にもなんとなく納得がいきます。まったく的外れな誤植ではないです。その意味では探しやすい資料だと言うことができます。でも,『九大法学』に掲載がないと気付いた時点で,レファレンス・ライブラリアンは「あ,無い……? えっと,どうしよう」と焦ったのではないでしょうか。回答はたった数行ですが,うまく解決できて良かったと思います。お疲れ様でした!

ちなみに,この事例作成日は2005年1月28日ですが,2007年3月17日現在ですと,この論文はネットで全文入手可能です。どこで入手できるかというと,前回も触れた機関リポジトリです。この論文が登録されているのは 「九州大学学術情報リポジトリ(QIR)」です。
「対抗問題」の位置づけ : 「第三者の範囲」と「変動原因の範囲」との関連の側面から
オープンアクセスのリポジトリがどんどん増えてくると,文献の入手が容易になりますね。

*1:この参考文献の記述の仕方についてはいつか触れたいと思います。レファレンスの研修や勉強会で嘱託職員や臨時職員さんに教えるときには,いろいろなタイプの参考文献記述を見てもらい,所蔵確認を行ってもらう作業をすることが多いです。非常に大事。

*2:民法判例百選 I 第5版』は平成17年出版なのですが……。

*3:中には,合併号にも1つしか巻号を持たせない雑誌もあります。つまり,それぞれの雑誌事情を利用する側が「そういうこともあるんだ」とわかっていることが必要なのです。