物体の熱を下げる一般的な公式を知りたい。

レファレンス修行中のみなさま! 今回の事例のように「物体の熱を下げる一般的な公式を知りたい」と言われたときに,どの棚を案内しましょうか? 理数系が苦手だとしても,さすがに4類あたりの書架を案内しますよね? では回答を。

「物理データ事典」の「熱伝導方程式」を案内。
ある目的の冷却装置を開発したい方だったので、さらに当館で実施している「技術相談」を紹介し、利用していただいた。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000032469

回答を見ればわかるとおり,このレファレンスの主題は物理に関するものです。知っていればなんてことはないのですが,「物理なんて高校で選択しなかったしなー」なんてことがあると難しいかもしれません。
物理学の熱エネルギーに関するあたりだろうと予想がついたとしても,問題はキーワードですね。回答ではあっさりと書かれていますが,「熱伝導方程式」という項目を見つけています。このキーワードに素早くたどり着くかどうかがポイントです。この担当者は知っていたのでしょうね。引き出しが広いのでしょう。すばらしい!
レファレンスブックの代表である各種事典というのは,巻末(複数冊に渡るものは別巻のこともありますが)に索引を持っています。この事典でも,索引で「熱」のあたりを探っていけば,それなりに絞り込めると思います。一度で回答にたどり着かなくても,何度か関連する項目を見ていけば「熱伝導」にたどり着くことでしょう。
知っていればすぐなんです。引き出しがあればすぐにわかるんです。そういう意味でレファレンス・ライブラリアンはたくさんの引き出しがあった方がいいのです。そして,少しでもいいからわかっていた方がいいのです。せめて高校で習う科目の教科書の目次程度は頭の中に入っていてほしいのです。自分が選択科目で選択しなかったものも含めて,です。教科書の目次というのはその分野の学問の基礎の基礎を体系化したものと言えます。ヘタな入門書よりもよっぽど役に立ちます。
さて,もう一つ。この事例の面白いところは,資料の提供だけにとどまらないところです。
「ある目的の冷却装置を開発したい方だったので、さらに当館で実施している「技術相談」を紹介し、利用していただいた。」とあります。これは備考欄を見ると,

<備考>
当館ビジネス支援室では月に2回県の産業技術センターの技術コーディネーターが「技術相談」に応じている。

とあります。図書館で技術相談ができるのです。「ビジネス支援」というのは,最近の図書館界を語るキーワードの一つです。図書館の資料を提供し,利用者の仕事に役立ててもらおうというものです。この事例を提供した神奈川県立川崎図書館は「科学と産業の情報ライブラリー」と称し,ビジネス支援型図書館として先駆的な図書館です。実際にはビジネス支援の看板だけ掲げているのに,うまく機能していない図書館もある中で,すばらしい活動をしています。特に社史・団体史のコレクションは全国有数の蔵書構成で,社史を探すなら川崎図書館の目録*1を引いてみよう,というのが一つのレファレンスプロセスとなっています。
技術相談までできる図書館というのはあまり無いかもしれません。でも,都道府県には産業技術センターのような機関があると思いますので,そういうところの問い合わせ窓口も一緒に提供するということもレファレンスの回答に含めることはできるでしょう。それを敢えてビジネス支援と呼ぶ必要があるかどうかはともかく,そういうことも図書館では可能であるということ,そしてすでに行っているということをわかってほしいです。図書館の資料は非常に魅力的で,仕事に生かそうと思えば生かせる資料がたくさんあります。
鳥取県知事の片山氏は図書館の機能について,「図書館のミッションは「自立支援」にあると考えている。(……)企業支援も図書館本来の機能の一つに過ぎないと捉えている。それは国民・住民が仕事面で自立するのを支援する活動にほかならないからだ。」と述べています*2
図書館には資料があります。図書館は誰にでも開かれています。レファレンスは利用者と資料を結びつけるものです。利用者に必要な資料や相談機関の紹介は図書館で行われることによって,身近なものになるのです。この事例のように,引き出しをたくさん持ったライブラリアンがレファレンスを行い,他機関と連携し技術相談まで行えるというのはとてもすばらしいと思います!*3

*1:http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasaki/cole.htm

*2:片山善博「図書館のミッションを考える」『情報の科学と技術』Vol. 57 (2007), No.4 「情報の科学と技術」 抄録 Vol. 57 (2007), No.4

*3:ここまでできなくても,最低限きちんと問われたことに回答できる資料を提供することだけでも,しっかり行いたいものです。そういう蓄積がないままビジネス支援などと言っても,説得力がありません。まずはきちんとレファレンスの回答を行うことが大事です。