1979年前後に流行したインベーダーゲームについて知りたい。可能であれば、ゲーム機(家庭用ゲーム機除く)の出荷台数など統計的なデータが欲しい。

今回の事例は,統計探しです。ゲーム機に関する統計。難しそうです……。
回答と回答プロセスを見ていきましょう。

<回 答>
統計類調査や、インベーダーゲームを1978年最初に発売した(株)タイトーに問合せるなどしたが、正確な数値は不明。統計類なども見つからず。
テレビゲームと少年非行を扱った、当時の新聞・雑誌記事、警察庁の通達などにより、大体の総数は約30万台と予想される。
⇒調査結果を依頼者に報告、納得されたので調査終了。

<回答プロセス>
(1)『白書統計索引』(日外アソシエーツ)等で、ゲーム・アミューズメント関連の統計を見てみたが、いずれも1979年以前のものなし。
(2)(株)タイトーへ問い合わせ
統計資料は現存しない。当時の社員へヒアリング調査した大体の数値を教えていただくが、当時の社員の記憶による数であって、実数は把握できない、統計情報として発表できるものでないが、参考までにという前提であった。
(3)関連協会へ問い合わせ
毎日新聞(1979.8.17朝刊)で、インベーダーゲームに絡む少年犯罪が報じられ、その中で全国のテレビゲーム総台数:28万3802台、内インベーダー型式81%という数値が警察庁から発表されていた。一方『大宅壮一雑誌記事索引』を調べると、「インベーダーゲームと少年非行」という記事が『警察時報』(1979.8)に掲載されていたことがわかる。警察庁が統計調査をしていた可能性を考え、『警察時報』所蔵大学に参考調査。
⇒所蔵大学(北海道大学様)より回答。『警察時報』の内訳は、文章による簡単な説明のみで、裏付けとなる数値は掲載されていない。しかし警察庁が「いわゆるテレビゲーム機に関する実態調査について」を通達しており、発表された台数は、全日本遊園施設協会による調査であることが判明。
⇒全日本遊園協会は既に解散しており、現在は日本アミューズメント工業協会、全日本遊園施設協会等に分散されていた。そちらに問合せたが、いずれもデータは残っていないとのこと。
(4)新聞・雑誌記事情報
『毎日ニュース事典』『読売ニュース同総覧』『大宅壮一雑誌記事索引』を調べると、下記のような数値に関する記事が掲載(新聞・雑誌記事の大半はゲーム代欲しさの少年非行と、それに対する体制の記事)
タイトー社長が「インベーダーゲームは現在推定18万台が全国に出回っている。(中略)夏には30万台に達する見通し」と述べている。(日本経済新聞1979.6.6夕刊)
・開発者の西角友宏氏が生産台数について「およそ30万台(中略)当時、普通のゲーム機は数千台作られればいい方」と述べている。(『文芸春秋』79(1)2001.1)
・「最盛期約30万台」(『警察白書』昭和55年版)
⇒以上の結果から、当時出回っていたゲーム機の半数以上がインベーダーゲームであり、その総数は約30万台と予想される。
(※丸囲み数字は引用時に括弧付き数字に変更した)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000034039

統計自体は見つからなかったものの,ある程度の数値にはたどり着いています。すばらしいですね。
プロセスを見ていくと,「統計を探す」→「販売元に聞いてみる」→「業界団体に聞いてみる」→「新聞雑誌記事を探す」という順を追っています。大事なのは,最初の統計探しの段階で見つからなくても,あきらめないということです。レファレンスに取りかかって,最初の検索戦略でうまく資料にたどり着けなかったときに,ライブラリアンの真価が問われるのです。
このように,統計を探す場合に,直接販売元に聞いてみるという手段や,関連業界団体に訪ねてみるという手段は,非常に有効です。
そして,新聞・雑誌を探すという手段。これはともすれば忘れがちなのですが,探してみる価値ありです。(4)で使われているものは記事検索の基本ツールです。ゲームについて調べるときに「大谷壮一雑誌記事索引」を選ぶのはレファレンスの担当者としては出てこなくてはいけません。今でこそ各種調査統計にゲームの項目があるものがありますが*1,当時若者の間に流行っていたことや,さまざまな社会問題が話題になったことを見ると,大衆誌や週刊誌を中心に記事索引をとっている大宅壮一文庫を引いてみるという発想があってほしいと思います。もっとも,だからといって,そこに統計事項があるとは限りませんが……。
この事例だといくつかの新聞記事や雑誌記事,そして,白書の記事もあわせて,およそ30万台であろうという予想がなされています。これは,一つの資料ではなく,複数の資料があってはじめて言えるものです。
さて,この事例でもっとも大事なことが一つ。回答文中に「調査結果を依頼者に報告、納得されたので調査終了」とあります。これです。質問者が納得すればレファレンスは終わりです。統計が見つかろうと見つかるまいと終わりです。レファレンスは「参照」ですから,解を見つけたり何かしらの考察を行うわけではありません。いくつもの資料から,「当時の出荷台数は30万台である」というのを説明するのではありません。「当時の出荷台数は30万台である」と推定されうる資料を提示するにとどまります。提示した結果,質問者がそれでいいとなれば終わりますし,もっと調べてくれと言ったら,もっと調べることになります。適当な回答で質問者が「もう,いいよ」とあきらめてしまわないように,なるべく精確な資料を提供したいものです。そのためにも,どのように・なにを・調べたのか,をきちんと伝えなくてはなりません。
この事例のように,調べ方がきちんと手順を踏み,ある程度の記事をそろえ提供した上でのことですから,質問者の方も納得したのではないかと思います。

*1:例えば,総務省の「家計調査」にはテレビゲームの支出項目がありますのでテレビゲームにどれくらいお金を使っているか,などの調査が可能です。そのほか『CESAゲーム白書』(社団法人コンピュータエンターメント協会)も最近ではよく参照されていると思います。