全国と京都市の学習塾の事業所数について、1960年代後半〜現在までを調査してほしい。

統計の探し方に関する事例を読むと,その主題(今回の事例だと学習塾に関する統計)と探し方の2点を学ぶことができます。
今回紹介する事例は非常に丁寧に回答プロセスが書かれています。

◎冊子体と雑誌記事(MAGAZINEPLISで「学習塾」をキーワードにヒットしたもので、掲載のありそうなものを調査)の調査。
(1)1960年代
・「その数は東京で三千、全国では約三万ともいわれるが、東京都の教育委員会も、また文部省でも実数をつかんでいない。理由は、学習塾は正規の教育機関ではないからである。」との記述が、「受験地獄と学習塾」(『青少年問題』12(9)1965.8)にあり。
⇒事業所数の実数は把握されていなかった様子
(2)1976年
1976年に文部省が初の『学習塾全国実態調査』(「児童生徒の学校外学習活動に関する実態調査」)を実施。
・「昭和52年の文部省調査では、その数は全国で約5万」との記述が『学校用語辞典』(昭和60年ぎょうせいp.108)にあり。
・「この調査によると、全国の学習塾の数は単純に推定して約二万三千、実数は5万とされますが、業界では”60万が常識”といわれるのが実情です。」との記述が、『子ども白書』(子どもを守る会1977年版p.340)にあり。
・『青少年問題』(中央青少年問題協議会24巻5号1977.5p.24-30)に、1976年の「学習塾調査の結果の概要」が掲載されているが、事業所数についての記載はなし。
・「世帯調査」の調査票に記入された学習塾の総数から算出の可能性があるが、正確な情報は得られらず。
⇒推定の域を出ておらず。この調査でははっきりとした事業所数は述べられていないよう。
(3)1986年
1986年版『事業所統計調査報告』総理府統計局の中に「学習塾」という項目が登場し、
1981年からの統計が掲載されていた。全国、京都市の事業所数の掲載あり。
1996年からは『事業所・企業統計調査報告』総務庁統計局に掲載。

◎関連機関への調査
(1)京都市総合企画局 情報化推進室情報統計課
京都市統計書』には産業中分類別事業所数までしか掲載しておらず。学習塾の項目は小分類であるため、非公開資料でのデータの所蔵の有無を問い合わせ。⇒所蔵されておらず。
京都市統計書』のデータは、総務庁統計局の『事業所・企業統計調査報告』を利用されている。
(2)総務庁統計局
『事業所・企業統計調査報告』の発行元である総務庁へ、1981年以前のデータを非公開資料の所蔵の有無を問い合わせ⇒所蔵されておらず。
(3)(株)全国学習塾協会(1988年通産省の外郭団体として設立)
⇒データをとっておらず。
矢野経済研究所が学習塾について独自の詳しい調査を行っており、『教育産業白書』に詳しく述べられているとのこと。しかし同書は本学に所蔵がなく、他学外でも所蔵巻は1982年からのため、直接同研究所に問い合わせすることに。
(4)矢野経済研究所
⇒データをとっておらず。
独自で調査を行い始めたのは最近。基本的には『事業所統計調査』のデータを利用されているとのこと。
(※丸囲み数字は引用時に括弧付き数字に変更した)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000034203

この事例は, d:id:nachume:20070410(1979年前後に流行したインベーダーゲームについて知りたい。) という事例で紹介した立命館大学の提供事例です。
立命館大学が提供する統計に関するレファレンスはプロセスが丁寧に書かれているので,参考になるところが非常に多いです。すばらしい。
ゲーム機の統計同様,ポイントは所蔵資料(あるいは全国の図書館の資料)を探すのと,関連機関への照会の2点です。
前者は図書館では当たり前のことです。ここで使っているMAGAZINE PLUS (PLISは誤記だと思います)は,雑誌記事の索引です。国立国会図書館の提供する雑誌記事索引も含まれていますし,国立国会図書館が記事索引を採録していない雑誌についても,索引が提供されていますので,非常に広範囲な記事検索が可能です。
「◎冊子体と雑誌記事の調査」にもありますが,このような統計が公的に公開されるようになったのはいつなのかという初出を明らかにすることがレファレンスの回答において重要になってきます。レファレンス・ライブラリアンとしては,総務省統計局の「事業所・企業統計調査」にはどのような項目があるのか時間を作って見ておくべきです。
次に「◎関連機関への調査」ですが,照会先の関連機関に市町村・業界団体あるのは当然として,もう一つ矢野経済研究所もあげられているのもポイントの一つです。矢野経済研究所マーケティング調査など,各種産業に関する調査を業務に行っている会社です。通常図書館にはあまり所蔵されない資料ですが,探してみると有用な情報が得られるかもしれません。
今回の事例では,これといって難しいことをしているわけではありません。
しかしながら,非常に丁寧に調査を行っていることがわかります。資料の調査と関連機関への照会という二本立ての検索戦略をうまく行っている点がとてもすばらしいです。