アメリカの黒人奴隷が宗教行事や音楽で使う太鼓を、回収・廃棄された事実はあるか。ラジオ番組で聞いたが、アフリカの土着音楽がジャズに変化していく中で奴隷の反抗を恐れて禁止した側面と、宗教弾圧の側面があるようだ。

すごく個人的なことなのですが,日曜から岩手県盛岡市にいました。ノートパソコンを持って行かなかったので,ネットへの接続は携帯電話のみという不自由さもたまにはいいのです。ちょっと調べたいことがあって,岩手県立図書館へ行ったり,盛岡四大麺の一つとされるじゃじゃ麺を食べたり。帰り道,ほめまくり事例で宮沢賢治を取り上げていたので,花巻にも寄ろうかなーと思ってのですが,一関まで行って,しばし散策し,ジャズで有名なベイシーで上質の音に囲まれてきました。ホントにいい音ですよ。
閑話休題。レファレンス業務をやっていて,音楽に関する質問というのはそれなりに多いと思うのですが,すっきりした回答が行かないことも多いように思います。例えば楽譜の出版が確認できても,それを入手できなかったり,あるいは海外では活躍しているらしい音楽家が日本ではあまり紹介されていないらしく資料がなかったり,など。でも,本は出版されていることがわかっているのにこういうジャズやポップスに関する問い合わせに提供するしようとすると図書館では所蔵がなかったり,というようなことがあって,なんだか消化不良のような回答をしてしまうことになるのです。
レファレンスの原則は自分が知っていることを自分の知識のみで回答してはならない,というものです。従って,回答を出すときにはなんらかの典拠資料を一緒に提供しなくてはなりません。ところが,ポピュラー音楽に関する質問だと,もはや資料というより自分の記憶の方が確かなこともあります。公共図書館ではそこそこ資料はそろっているのでしょうが,それでも「タレント本は収集しない」という方針の下に蔵書構成が作られ,ポピュラー音楽に関する資料群がどうもイマイチ……なんてこともしばしば。なかなか難しいんですよねぇ。
という前置きが長くなりましたが,今回からはジャズを通じてレファ協を見ていきます。まずは,ジャズの歴史に関するレファレンス事例です。

<回答>
太鼓の回収・廃棄の事実を記述した資料はなかったが、太鼓を叩くことが禁止されていたとの記述は、複数の資料に見つかった。例えば、『ジャズ』(悠雅彦著)と『独断と偏見のジャズ史』に、1775年にジョージア州が奴隷の太鼓・ラッパなど音量の大きな楽器類の演奏禁止を布告した、という記述あり。
<回答プロセス>
今回はジャズ・アフリカ音楽・アメリカ黒人音楽等音楽関係の資料にあたり、回答した。他に「黒人差別」「アメリカ黒人の歴史」などの観点から調査する方法もあることを伝えた。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000023794

質問にちゃんと答える形で「○○は無いが△△はある」という回答文になっていることは基本中の基本ですが,きちんとできています。この場合は,太鼓の回収と廃棄については資料的な裏付けが無かったとのことです。また,ジャズの歴史とアメリカ史には密接な関係がありますが,そういう方法も考慮されているのがすばらしい。調査自体は質問者が行い,レファレンス・ライブラリアンはそのための資料の提供を行います。参考資料をみると,たくさんのジャズの歴史関係の資料を提供したことがわかります。音楽に関する本というのはありそうでなくて,なさそうであってというつかみ所のない資料群でもあります。ジャズはそれなりに文献もたくさんある方だと思いますが,なかなか絞って提供するのが難しい中,きちんと対応できていてすばらしいと思います!