20年前くらいに公共図書館で読んだ絵本について

コーヒー関連の事例を取り上げる予定でしたが,6月4日からレファ協はシステムメンテ期間で利用できませんので,前に書いてボツにしたものをリライトしてみました。
ストーリーレファレンスについての事例です。「こんな感じのあらすじだったんだけど……」という問い合わせは案外多いものです。そして,この手の質問は児童書に圧倒的に多いように思います。この手のレファレンスは「ストーリーレファレンス」と呼ばれることがあります。
質問と回答を見ていきます。

<質問>
20年前くらいに公共図書館で読んだ絵本について
・太陽が月と同じくらい明るすぎたので話し合い、それぞれの子どもを捨てることにするが、結局月だけが自分の子どもを捨てて、太陽は捨てなかったので太陽が明るいのだというお話。
・子どもを捨てる時に、袋に入れる。長方形で黒っぽい本。
・それほど大きくない。
・絵はかわいい絵ではない。

<回答>
お探しの資料に近い資料が見つかりましたので紹介します。
 『つきとたいよう : トーゴのはなし』 やまむろしずか ぶん かわざとてつや え コーキ出版 1977.9 32p ; 22×27cm (絵本ファンタジア) (当館請求記号Y17-5466 国際子ども図書館所蔵)
 内容の相違点・この本では子どもを捨てるのは太陽で、太陽が袋に入れた子どもがさかなになり、月が捨てなかった子どもは星になる。

<回答プロセス>
児童書総合目録(http://www.kodomo.go.jp/resource/search/toc.html)のタイトルに「つき」「たいよう」と入れて検索し、ヒット。(インターネットの最終アクセス日:2005/12/3)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000029812

すごいですね。よく見つけだしたと思います。
児童書総合目録でキーワード検索したものに合致する資料があったということでよかったと思います。このようなデータベースはありがたい存在ですね。
少しこのストーリーレファレンスについて原理的なところを見ていきます。
ストーリーレファレンスは非常に答えにくいのです。理由はいろいろあるのですが,なんといっても,物語のあらすじに対して有効な検索手段がない,ということにつきます。
資料の検索というのは現状では,ある概念を名詞化できなくてはなりません。ちょっと難しいかもしれませんが,ある概念を示す名詞には主題-題術関係が織り込まれています。概念を示す名詞というのは,「○○が△△することを□□(=概念を示す名詞)という」というような文で表されることが可能です。この場合,通常□□の部分をキーワードとして「○○が△△する」ことをひくことができます。
検索戦略のためのキーワードというのは,その検索対象についてある程度知っていてこそ適切な選択ができるのです。そう考えるとまったく知らない何かを新しく知りたいたい時に資料を探すというのはそれ自体矛盾を内包した行為と言えなくも無いのです。
あらすじに対して適切なキーワードの付与が困難であった,ということがこのストーリーレファレンスの回答困難性につながります。
ところが,近年大量のテキストデータをコンピュータ上で処理できるようになったところ,全文検索が現実的な速度で可能になったことで状況は変わってきました。この回答プロセスでも用いられている国際子ども図書館提供の「児童書総合目録」の検索画面には「あらすじ」というフィールドを持っています。このフィールドには単語ではなく,文章がデータとして入っています。つまり,このフィールドに入っている文章全体を検索することが可能です。このことは意識せずとも利用できますし,それでかまいませんが,よく考えるとすごいなぁ,と思います。あらすじは「○○が△△する」という文型が頻出しますので,含まれる単語単位で検索すると見つかる可能性が高くなります。
検索法に関する議論は,自然言語処理に関する様々な技術や言語学的モデルによるところが大きいのですが,本来なら一ユーザにとどまらないライブラリアンもこのような議論に参加すべきだと思います。司書=文系などというステレオタイプはいい加減破棄したいのですが,なかなかそうもいかないですね。
と,話が大きくそれてしまったので閑話休題
回答についてもう一つ。レファレンスの回答としてはこちらの方が大事です。それは質問事項と相違点があるということをきちんと明記していることです。「これこれこういう方法で,探している資料に近い資料はみつかったが,この点が元の照会と異なっている」と書かれていてこそ回答です。これが「これこれこういう方法で,探している資料に近いものが見つかったので,きっとこれだと思う」というのはレファレンスの回答ではありません。あくまでも,資料について判断をするのはレファレンスを依頼した側です。ライブラリアンは資料の提供にとどめ,その資料が相手の求めるものかどうかを判断してはいけません。
このことはレファレンスの経験が浅い人より,ある程度経験がある人がやりがちです。それなりに資料の検索もでき,ある程度自館の蔵書構成もわかってきた,あとは利用者の求めにズバリ資料を提供するだけだ,と意気込んでしまうと,「ちょっと違うけど,これですね」というような提供をしてしまいます。気をつけないと行けませんね!