レファレンス協同データベースを用いた研修について

しばらく更新が滞ってしまいました。
ちょっとバタバタしていたのですが,この間に,nachumeは図書館学を勉強している学生さんに,地域を主題にしたレファレンスについて,話す機会がありました。普段の大学の授業とリンクしながらも,できるだけ図書館の現場の雰囲気も味わいつつ,それでいて地域資料の担当係らしい実習ができたらいいなと思って,準備しました。今回は事例紹介ではなく,nachumeがどんな風にレファ協を利用して研修を行ったかを,つらつらと書いていきたいと思います。
地域資料の研修に与えられた時間は2日。短いです。ある程度大きい規模の図書館のほぼ全ての部署をまわるとすればこの程度の時間しか取れません。特にポイントを絞って研修を行うのか,全体を満遍なく見渡すような研修を行うのかは,研修企画によります。当館では後者を取ったので,必然的に一つの係の研修時間は短くなります。
簡単に内容を追いかけていきます。まず概論的なところで当館の状況やらなんやらの説明から始めます。そして,資料の収集についていろいろと実際に業務を行っている側に問題となっていることなども触れています。資料の収集と同時に資料の組織法についても解説が必要です。図書館学の教科書には,地域郷土資料は図書館独自の分類体系を用いているところが多いという記述をよく眼にしますが,まさにこの点,通常のNDCとどう違うのか,そして現に生じている問題はどこにあるのか,ということを一緒に話をしながら考えてもらいます。一方的な座学研修とは異なり,図書館学の学生さんの実習ですから,図書館学的な考え方と同時にその図書館の持つローカルルールがどのような観点の元に成り立っているのかを両方知ってほしいのと,もしかしたらこの先一緒の業界で働くことになるかもしれない人ですから,現時点で問題となっていることを少しでも研修中に実感してもらえたら(それを解決する手段などは二の次で)いいなと思って,なるべく隠し事はせず現状を説明しました。このあたりは座っているだけではなく,実際に館内を動きながら,どこにどんな資料が配架されているかなども含め,身体で感じてもらおうと企図しました。そして,レファレンスについて。通常のレファレンスではなく,あえて地域資料をもちいたレファレンスを特に取り上げるのは,やはり図書館においては,資料を収集保存したうえで,利用に供するという点から非常に大事だからです。
というわけで,参考になるかどうかはともかくとして,実際に行った研修の一部を紹介します。一般に地域資料に関するレファレンスサービスには

  • レファレンスライブラリアン 
  • 当該地域の自治体や出版事情など資料の背景に関する情報
  • 当該地域の自治体及び自館の地域資料についての十分な調査
  • レファレンスブック,レファレンスコレクション
  • 自館作成のレファレンスツールの整備

という要素が必要だといわれています。
十分な資料があって,十分な情報を持った司書がいて,十分な利用があると,その地域郷土資料は生きてきます。これらの資料を利用した人が新たな何かを生み出す原動力になります。これらを踏まえて,一般資料を用いたレファレンスと地域資料を用いたレファレンスの違いについて考えてもらいました。必ずしも,正解があるものではありませんし,一日や二日でどうにかわかるものでもないと思います。ですが,考えてみることは必要ですよね。
この辺の抽象的な話から今度は具体的なところへもっていきます。レファ協の出番です。他館の事例をほめてもらいました。レファ協を使っていればわかりますが,いわゆる地域郷土資料的なレファレンスを他館で行っていることがあります。北海道に関するレファレンスを岡山の図書館で解決しているなんてことはレファレンス協同データベースを眺めているとわかります。これらをいくつかピックアップして,事例の分析をしてもらいました。事例を読むときに,粗を探すだけなら簡単なので,問題設定としては「ほめる点はどこか?」というものです。
今回の実習では,事例をほめるときの観点として,自分が事例提供館で回答するか,自館(事例中の地域郷土資料をもつ図書館)で回答するかという点を意識してもらいました。具体的にピックアップした事例とその分析は(いろいろあるので)省略。機会があれば少しずつ書いていきます。
具体的な作業としては,レファ協の事例を上から下まで読んでもらい,実際に事例のプロセスどおりの資料を手にとってもらいます。その上で,このプロセスがいいとか,この参考資料をチョイスしているのがいいとか,ほめポイントを見つけてもらいました。
この作業をいくつか行い,実際に当館で蓄積された事例をもとにレファレンスの回答を作ってもらいました。
レファレンスの演習というと,ともすれば概略説明と問題演習だけを行うプログラムになりがちです。実際には同じ主題のレファレンスについてもプロセスは千差万別ですので,一人であれこれ考えてもらうこと*1よりも,ある主題に関するレファレンスの事例をたくさん読んで分析することで,多様な回答プロセスを自分のものにすることができると考えてこのような段階を踏みました。短い時間でしたが,それなりに好評だったと思います(自画自賛)。
こんな感じで進めました。全部は書ききれませんのでこれくらいで。レファ協の事例を活用した研修というのは各地で行われていると聞いています。活用方法は人それぞれでしょう。レファ協の事例は実際に各図書館が受けたレファレンスを元に作成されたものですから,教材としてもすばらしいと思います。単純な一問一答形式でしか書かれていない事例もあれば,やたらまわりくどい回答プロセスをたどっている事例もあれば,とてもスマートな回答をしている事例もあります。決してレファレンスの回答としてすばらしいものばかりではありませんが,そういうった事例ですら,どこをどうしたらよりよい回答になるだろうかと考えるきっかけになるので,よい教材になりえます。
かなり長文になってしまいました。具体的にどんな事例を使ったのかを説明しないままに,話を進めても抽象的に過ぎると思います。わかりにくい記述になったかもしれませんが,こんな風にレファ協を用いて研修を組み立てることができました,という報告です。
よろしければ感想をおよせください。お待ちしております。

*1:もちろん,こういう段階も必要です。