「思えば遠くへ来たもんだ………」という詩の全体と作者を知りたい。

唐突ですが,たまに読みかえしたくなる本ってありますよね。nachumeの場合,何種類かそういう本があるのですが,そのうちのひとつが中也の詩集です。
まずは回答から。

1 中原中也ではないか、と思われたが確認の必要があるので、中也関係、名詩関係の資料にあたる。ところが、詩の中の文言で引けるツールが見つからない。
2 インターネットで「思えば…」を検索したところ、フォークグループ海援隊の歌が引っかかり、歌詞(武田鉄矢作詞)も全部わかった。思い違いだったか、と思い、質問者に海援隊の詩を紹介。
3 資料課の職員が、文庫版の中也詩集から「頑是ない歌」という題の同じ文言で始まる詩を見つけてくれた。海援隊の歌詞はかなり類似しており、中也の詩を下敷きにしていることがわかった。質問者には連絡できず残念だった。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000012717

レファレンスそのものとしては,資料提供がうまくいかなかった事例です。レファレンスの中にはこういうこともあります。そこで終わるのは勿体ないです。ヒヤリハットとまで大げさなものではありませんが,うまく資料提供に至らない事例もまた蓄積されることに意味があるのです。
備考欄にもありますが*1

「詩」は検索ツールが少ない。(個人全集には索引があることもある)

ということで,レファレンスのためのツールが少ないことがわかります。確かに,和歌に比べると探しにくいように思います。この質問のように,作者がよくわからなくて,詩の一節だけなんとなく覚えているという場合には,何をどうしようかちょっと考え込んでしまいます。
近代以降の詩について調べるときの定番(といえるか微妙な所ではありますが)レファレンスブックに『日本名詩集成』(学燈社,1996)があります。この資料は索引が充実していて,詩の冒頭一節も索引化されています。だから,出だしのフレーズによってはこの資料で探すことができます。ただ,利用者の覚えているフレーズがいつも冒頭部とは限りません。
となると,この回答にあるように,googleで検索することが思いつくのですが,残念ながら,この事例のように必ずしも正しい(調査目的に合致した)回答が得られるとは限りません。どう考えても,武田鉄矢氏率いる海援隊の唄のが有名です。ただ,キーワード検索にもコツがあって,中原中也かもしれないと質問者がヒントをくれているので,「思えば……」と「中原中也」とを掛け合わせてみるとか,文語の可能性も考え「思えば」と「思へば」として検索してみるとか,そういう工夫はできると思います。また,利用者の勘違いという可能性もつぶすために,中也の作品を通覧しようとするときに,青空文庫を利用するという手もあるでしょう。中也の作品は主要なもの(詩集としては『山羊の歌』と『在りし日の歌』の2編だけです)は青空文庫で利用可能です*2。ここでそれぞれの作品を全文検索してみるとたどり着けた可能性もあります。
この事例が教えてくれるように,資料の提供が結果的にうまくいかなかったものを事例化すると,様々なことが見えてくるのです。ほかの検索手段は無かったのか,本当にレファレンスブックを使いこなしていたか,インターネットは十分に活用できたか,などなど後で振り返りコメントやメモをつけておくと,立派な「事例」になり得ます。成功事例でズバッと資料提供している事例はもちろんですが,このような事例こそ,勉強にもなりますし,何より自分が陥らないための予防線を張ることもできるのです。
学ぶべき点は多いですよね。
このエントリの最初にも書いたとおり,nachumeは近代詩が好きなので,このレファレンス事例にある詩については,すぐにピンと来ます。ただし,レファレンスとして考えた場合,きちんと質問者に対して資料の提供(この場合だと中也の詩集。貸出中だったら予約を案内したり,所蔵がなければ所蔵調査を行ったりとその辺も含めて資料の提供)ができなくてはいけませんから,自分の知っている知識だけで「あ,それは中原中也の詩です」とだけ答えるのはダメですよ,念のため。

*1:この事例提供館は岐阜県図書館ですが,岐阜県図書館の事例には備考欄に一言コメントがついているものが結構あって,いろんなことに気付かされます。

*2:青空文庫. 作家別作品リスト:中原中也