「栗の花」の文学的考証を知りたい。

秋らしい日々が続いています。ということがようやく言えるようになったこの頃。先日実家に帰った折,裏山の栗が落ち始めていたので,拾ってきました。あんまりいい出来ではなく,ほんの少しですが,栗ご飯で頂きました。秋です。
今回紹介する事例で取り上げられているのは栗は栗でも,「栗の花」。栗の花はご存じですか? 見たことがある人はわかると思いますが,白くてふさふさしています。6月頃,梅雨に入る前に咲きます。花の形より独特のむっとする香りが苦手だという人も多いです。
主題はあくまでも「文学的考証」です。これをどのように調査していくか,回答を引用してみましょう。

日本国語大辞典』で”栗”の項目を調べる。→「栗の花 俳句・季語 夏」とあり。
『図説俳句大歳時記 夏』に「栗の花」が掲載されていて、解説、考証あり。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000022829

あっさりした回答ですが,学ぶべき点が多いです。
一般にレファレンスでは,最初の段階では百科事典に代表される総合的な事典類を参照し,次に主題ごとの事典類を参照するということが多いです。この事例のように,ある言葉の文学的考証を知りたいというような場合,「言葉」「文学」という方面からアプローチすることは容易に判断できますので,最初からそのように進めていきます。ただし「文学」ということから,NDCでいう9類の事典類にいきなり飛びつくのは少し性急かもしれません。そのあたりはこの事例が非常にうまいのです。
最初に手にしたのは小学館の『日本国語大辞典』です。これはいわば「国語の百科事典」とでもいうべきものでしょう。どんな図書館にも1セットは必ずあります(あって欲しいです)*1。この『日本国語大辞典』,通称「日国」は用例が非常に豊富ですので,読んでいるだけでも面白い辞書です。
話を戻して,最初に手にした日本国語大辞典で,「栗」を調べると俳句の季語であることがわかりました。ここで終わらせないところもポイントですね。これまでもなんども書いてきたように,レファレンスの回答には,なるべく複数の情報源を示し,利用者の調査研究に役立つような資料提供が必要です。
季語であることがわかれば,俳句,歳時記などをあたってみます。ここで手にしている『図説俳句大歳時記』は角川書店から刊行されたもので,非常に収録季語がおおく,丁寧な記述があり,レファレンスツールの定番と言えるでしょう*2日本国語大辞典から夏の季語であることがわかっているので,すぐに見つけることができました。
特定主題の事典は総合的な事典よりも当然ながら,詳しい記述がなされていることが多いので,「栗の花」についての「文学的考証」ということであれば,こちらの方がより適切ですね。さすがです!
たった数行ですが,ピント外れとなることなく回答に至っていますので,これは是非覚えておきたい手順ですね。

*1:現在は第二版で,通常版全14巻のほかに,精選版全3巻があります。初版は全20巻,縮刷版全10巻が刊行され,また,オンラインデータベース「Japan Knowledge」のコンテンツとして「日国オンライン」というサービスもあります。館種をとわず図書館では,蔵書規模の大小にかかわらず,ここにあげたどれかは所蔵しているのではないかと思います。

*2:公共図書館であれば都道府県立クラスにはほぼ所蔵があるはずです。調べたい季語がある時に,近くの図書館にこの資料の所蔵が無くても,カウンターでレファレンスとして所蔵館に照会するようにお願いしてみてください。