参加館通信でのインタビュー記事(その2)

前回に引き続き,レファレンス協同データベースの参加館向けに配信されている「参加館通信」というメール版ニュースレターに載ったインタビュー部分の後半です。
もと記事の書誌事項は

です。

連載インタビュー:第8回「レファ協をほめまくる理由・下」
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 前号に引き続き、ブログ「レファ協ほめまくり」の管理人nachumeさんへのインタビューです。

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レファ協ほめまくり
http://d.hatena.ne.jp/nachume/
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■毎日ほめ続けていくにあたって、事例はどうやって選んでいるのですか?

 いくつか方法があります。
 一つは、思いついた言葉や、新聞で最近読んだ言葉などで検索をして、出てきた事例を読んでいく方法です。たとえば統一地方選挙が4月に行なわれましたが、そのときには「選挙」というキーワードや政治に関係するキーワードを使って検索していました。

 また、検索する言葉として、「大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録」とか「国史大辞典」といった特定の参考図書名を使うという方法もあります。資料名は比較的表記にばらつきが出ないので、関連する事例を漏れなくチェックできます。
 こんなものがあるのか!と思うようなマニアックな辞典類で検索してみるのも、色々な事例が見られて面白いです。普通そのような資料は図書館にしか置いていないので、「こんなことを調べるには図書館が役立つ」ということのアピールにもなるかも知れません。

 その他、RSSリーダーを使って新着事例をチェックする方法や、NDCからブラウジングする方法もとっています。

 なるべく幅広く、色んな図書館の事例に注目していきたいのですが、検索だとどうしても網羅的に見るわけにいかないので、登録事例の多い図書館ばかり取り上げることになってしまいがちなのが悩みの種です。


■記事を書く時は、どのようにされているのですか?

 まず事例を読んで、自分で資料を手にとって、その調査過程をできる範囲で追体験してみます。登録されているレファレンス事例は、回答までのプロセスが詳しく書かれたものだけではありません。そういった事例についてもほめるポイントを見つけるためには、そのプロセスを自分の頭で補完する必要があります。

 なぜこの資料を提供したのか、なぜこのデータベースを使ったのか。インターネットで探したものであれば、なぜインターネットを使ったのか。どういう考え方をたどった結果、この回答になったのか。

 最近の「レファ協ほめまくり」の記事では、利用者への資料提供に至らなかった事例を続けて取り上げていました。これは、なぜ提供できなかったかというプロセスを追いかけるためです。たとえば、この状況だと調査の方法のバリエーションが少なかったんだろうなとか、この資料はそもそも発行点数の少ない資料だから手元になかったんだろうなといった推測をしています。

 そうしてプロセスを補完しながら読むと、たいへん勉強になります。単に事例を読むよりも、はるかに効果的です。自分の図書館の所蔵資料にも詳しくなりますし、自分が詳しくない主題について「なるほど、まずはこういう基本資料を調べるのだな」と分かったりします。

 普段の業務で経験しない種類の調査を体験することもできます。たとえば私の勤めている図書館では、文学分野のレファレンスは所蔵調査がほとんどで、それ以上に踏み込んだ調査を依頼されることはあまりありません。そういった、毛色の違う事例を追体験できるのもメリットの一つです。 もちろん、こういう一連の作業は勤務時間外にやっていますよ。


■プロセスを補完していくというのは、勉強になる一方で、やはりなかなかたいへんな作業だと思います。そういうことが必要だと思われたのはなぜですか?

 ブログを読む方に、レファレンスというものを科学的な行為として考えてほしいからです。レファレンスは、理由も分からずになんとなく回答が出てくるというブラックボックスではなくて、きちんと根拠に基づいて行っていることなのだということを理解してほしいんです。

 そのためには、回答までのプロセスをきちんと示す必要があります。もちろん、私の考えたプロセスは、実際に回答された方のたどったプロセスとは違っているかも知れません。でも少なくとも、どうしてそういう回答になりうるかという筋道を示さなくてはいけない。

 そうすることで一般の利用者の方に、レファレンスというのは根拠に基づいたサービスで、だからこそプロに任せた方が良い結果が出るのだということを納得してもらえると思っています。本当は、レファ協に登録されているのが、そういったプロセスの見える事例ばかりであれば一番良いのですけれども。

 同じことは、図書館員の立場からもいえます。職人芸のように、理屈は分からないけれど経験を積めばなんとなく適切な回答を出せるようになる、というものでは困ります。プロフェッショナルであるからには、勤務年数や経験を問わず、誰でもある程度のレベルの回答ができるようにならなくてはいけません。

 そのためには、調査のプロセスを意識することが必要です。実際に優秀なレファレンスライブラリアンを見ると、一見職人芸のように見えても、実は経験に頼るだけではなく、必ず理論的に分析して動いていらっしゃいます。他人の作った事例の回答プロセスを分析することで、そういったプロセスも意識するようになってほしい。

 レファレンスというのは、関数だと思っています。Xという条件を投げれば、いつでもYという回答が出る。どういうXを投げればうまく回答が出るかという、そのXの選び方がプロとしての技術なのであって、プロセスは誰がやっても同じになる、客観的なものだと思います。


レファ協のコメント機能についてはどう思われますか?

 あった方がいい機能だということは、間違いないと思います。ただ、いちいちログインしなければならないのが少し面倒ですね。「ありがとう、この事例が役に立ちました!」と一言伝えるのにはステップ数が多いように思います。また、誤字程度のちょっとした内容を伝えるのに「こんなことを言って気にしないかな?」というためらいがあるのも分かります。

 たとえば当館の事例について誤字の指摘を受けたとしたら、恥ずかしいだろうと思います。でも指摘をされなければ、間違った記述がいつまでも人目にさらされていることになって、その方がもっと恥ずかしい。指摘をもらえることはやはりありがたいことですし、他の参加館の方も同じように思っていらっしゃることでしょう。

 少し前にWeb2.0という言葉が流行りました。一方的に情報を出すだけではなくて、互いに情報を交換しあうことで、知識の体系が出来ていくものだと思います。コメント機能に限らず、他館のレファレンス事例について、自由に意見を述べ合える雰囲気が生まれればいいですね。

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 事例を「ほめる」ということを通じて、様々な可能性が見えてくるというお話でした。