北海道か東北地方の民話の本を探している。ある村の予言者(巫女?)の占いに従って、愛し合っている若者と娘を殺したところ、二人のたたりなのか、村が滅びてしまう話があったことを覚えている。以前葛飾区の図書館で読んだ記憶がある。

「こんなあらすじだったんだけど……」というレファレンスを一般に「ストーリーレファレンス」と呼びます。なかなかうまいこと資料を探すことができないことが多いタイプの質問です。だから見つかると殊更嬉しいのですが……。
今回紹介する事例は,うまく見つかったものです。プロセスにもあるとおり,たくさんの手段をもちいて,レファレンスに回答をしています。
というわけで,順を追って見ていきます。回答と回答プロセスを引用しましょう。

<回答>
『日本の民話10残酷の悲劇』(角川書店1974)、質問者が記憶していた話は「春に死んだふたり」であることが判明。

<回答プロセス>
・『昔話・伝説必携』(学燈社)、『日本「神話・伝説」総覧』(新人物往来社)等で調べるが、それらしい内容の本は見当たらず。
・県立図書館に照会、日本の昔話事典類には掲載なし。
葛飾区の図書館ホームページで「日本の神話」を検索、該当しそうな本があったので県立図書館所蔵資料で確認すると、質問にあった話が掲載されていた。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000030205

そもそも昔話が文字資料というよりも非文字資料であることも関係しますが,昔話を探すというのは案外難しいものです。
結果的に資料に行き当たっていますが,プロセスは秀逸ですね。やるべきことをきちんとやっているレファレンスのお手本のような回答が出されています。時間は多少かかったと思いますが,すばらしいです。
まず,所蔵している事典類にあたり,そして,調べたことを元に,県立図書館へ協力レファレンスとして,照会しています。公共図書館の場合は所蔵資料がないために自館で解決できないレファレンスを都道府県立図書館へ依頼して,間接的に都道府県立図書館を利用することができる仕組みができています。どんな小さな図書館でも,単独で存在するのではなく,他の図書館とネットワークで結ばれていますので,家の近所,職場からの帰り道,など行きやすい図書館を利用することにより,図書館という大きな資料群を利用することができます。図書館を使いこなすコツの一つですのでぜひカウンターでいろいろ相談してみてください。図書館の中の人は,カウンターでいろいろと相談にのってください。一人じゃないんです。お互い助け合いです。
話がそれました。閑話休題。県立図書館で見つからなくても,あきらめていません。質問者の人がかつて読んだことのある図書館の目録を検索しあたりをつけ,所蔵している県立図書館へ再び照会しています。果たして,目的の話を見つけることができました。
1度目に県立図書館へ照会したときは,利用者がどこで読んだか,という情報を伝えたのかどうかは定かではありませんが,受けた県立図書館はあくまでも昔話に関する事典類や書誌を参照して,見つからないという回答を出したのでしょうか。
この事例の場合は,あきらめないことと質問者から得た情報(「葛飾区の図書館で読んだ」)をうまく書誌検索に生かしたことがうまくいった要因です。大事ですね。あきらめないこと。どんな場面でもあきらめたらそれでおしまいです。
さて,事例のすばらしさがきれいにまとまったところで,レファレンスという点からもう少し。世に昔話事典の類は何種類も出ていますが,これを見ればとりあえずOKといえるようなものはありません。それぞれに違う持ち味があるので,レファレンス・ライブラリアンとしては,この昔話事典の類について,目を通しておくとよいと思います。どれがよく使われるとも言いにくいのですが,nachumeはまず『日本昔話事典』*1を手にすることが多いです(あくまで個人的な優先度)。少々古い出版ですが,昔話のタイプ*2も参照できるので,重宝します。
また,この頃は児童書総合目録も一度検索してみるようにしています。あらすじ検索ができることと,児童書で刊行されているものでも,そのまま十分に回答に耐えうるものだったり,解題や解説部分に底本など資料について書かれていることもあって,資料探しに役に立つことが多いのです。
この事例提供館は千葉県の横芝光町立図書館です。先日行われた第9回図書館総合展内で知的資源イニシアティブ(IRI)主催で行われたライブラリーオブザイヤー2007の最終選考に残り,結果優秀賞を受賞した図書館です。Webサイトをみてわかるとおり,写真付きで新着図書の案内や更新頻度の高いブログ,調べ物に使う本の紹介等々多彩なコンテンツを有しています。
レファレンス協同データベースにも参加しており,現在までに40個程度の事例を提供しています。日常よく聞かれるタイプの質問も多いだけに,レファレンス・ライブラリアンは読んでおくと予習になると思います。横芝光町立図書館さんは,いろいろな活動をしている図書館であり,なるほどなーと思うこともしばしばです。勉強させていただいておりますし,影ながら応援しています!

*1:日本昔話事典 / 稲田浩二. -- 弘文堂, 1977.12

*2:昔話の分類には「AT分類」が有名ですが,長くなるので説明は割愛。機会があれば触れたいと思います。