交通事故の保険料が男性か女性かによって差があるようだが、これは何によるのか。

寒くなりましたね。今回は交通事故の保険金に関するレファレンス事例です。交通事故に関するさまざまな資料は,公共図書館でも探している人をよく見かけますが,今回のポイントはキーワードを的確に設定できるか,です。
まずは回答と回答プロセスです。

<回答>
交通事故にあった際に、保険会社が提示する賠償金額には、治療費・入院費や休業損害などが含まれる。
休業損害は、性・年齢・職業によって大きく差がでるところであり、例えば顔の傷による逸失利益(事故にあわなければ得られるはずだった収入等)の算定に、後遺症が残る場合、俳優やモデルは高く算定される。
死亡の場合には、同様に逸失利益によって金額が変わる。以前は子どもの場合、男女差があったが、現在は以下の資料等によってわかるように、同額となってきていることを紹介。

【和雑誌記事】
憲法 : 交通事故死女児の逸失利益の算定方法と男女平等 / 君塚正臣, 2002.06.10(ジュリスト ; 1224).
・交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言(平成11年11月22日) / 井上繁規, 中路義彦, 北澤章功, 2000.02.01(ジュリスト ; 1171).
・損害賠償のしくみ : 損害賠償の現状 : いのちの値段の男女格差 / 中野麻美, 1999.03.00(かながわ女性ジャーナル ; 17).

【新聞記事】
・家庭六法 : 交通事故を巡るルール 4 : 顔の傷、男女で保険金額に差 / 加茂隆康, 2007.02.25 (日本経済新聞).
・家庭六法 : 交通事故の紛争 3 : 主婦の補償 平均賃金使う / 加茂隆康. 2006.08.20. - (日本経済新聞).
・失った将来同じ重み : 事故死したダウン症児の両親 逸失利益争い3年 : 「健常児並み」和解 / 井上恵一朗, 2006.03.31. - (朝日新聞).

<回答プロセス>
国立女性教育会館女性情報ポータル“Winet”「文献情報データベース」
http://winet.nwec.jp/opac/expart-query?mode=3
で、種別「和雑誌記事、新聞記事」を、フリーワード「逸失利益」で検索。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000035860

この事例は専門図書館である国立女性教育会館提供のものです。キーワードについて考える前に,公共図書館で似たようなレファレンスを受けたときにどうとっかかりをつけるか,ということを少し考えてみましょう。事例の主題は交通事故の保険金についてですが,もう一つの主題は男女の保険金額の差です。どちらを主に捉えていくか,最初の選択は重要です。一般に,より具体的な主題について資料を探す方がうまく行くことが多いです。「交通事故」という主題を設定するよりも,「保険金の差」という主題を設定して調査をした方がうまくいく確率が高いと判断し,まずは後者から攻めていくのがいいでしょう。もしうまく行かなかったら,前者の「交通事故」というところから攻めていくことになります。
この事例ではそこまで考えずとも「保険金額の差と女性」ということから資料を探すことが可能です。そもそも国立女性教育会館は,機関の目的が各種事業を通じて,男女共同参画社会の形成に資するというものなので,収集している資料や情報が,自ずと女性問題に関するものになります。
回答に用いられている「Winet」は以前も紹介しましたが,女性情報に関するポータルサイトです。非常に充実していますので,かなり使いでがあります。この「Winet」に「文献情報データベース」というデータベースがありますが,これが新聞記事や雑誌記事を検索できるので非常に便利です。保険金の差についてこのデータベースを用いると,女性と保険金に関する資料があればヒットすることになります。
さて,事例に戻ります。ポイントはどのようなキーワードを用いて検索するか,と先に指摘しました。これが「逸失利益」という単語です。民法を勉強するとこの単語はおなじみになるのですが,日常よくつかう言葉ではありません。「単位の換算」を「度量衡」というのと同様に,「不法行為がなければ得られたはずの利益」を「逸失利益」といいます。
この「逸失利益」という単語を知らなくても,例えば,NDL-OPAC雑誌記事索引で「交通事故 (and) 男女 (and) 差」などと検索式を立てれば,なんらかの資料に行き着きますので,そのあたりから芋づる式に資料にあたっていくとか,百科事典で「損害保険」をキーワードに引くと保険料算出について解説されているものがあり,「逸失利益」というキーワードが見つかるとか,手だてはあります。が,レファレンス・ライブラリアンとしては知っておいて損はない単語だと思います。
この事例の回答を見てみると,最初に保険金についての概略説明があり,次に提供した資料が列挙されています。これは回答に検索して得られた資料リストのみを記述するよりも,丁寧でいいと思います。とくに,レファレンスの回答そのものとしては,資料リストのみの提供でも場合によっては構わないと思います。ところが,事例集として見た場合,資料リストのみより,このように,事例に関する概略も同時にわかった方が,より事例から学ぶことが多くなります。事例の書き方も非常にすばらしいと思います。
11月もそろそろ終わりです。nachumeの住むところも先日雪が降りました。雪道の事故には気をつけたいもの。今日も帰り道,交通事故の現場でちょうど事故車がレッカー移動されているところを通り過ぎました。事故には注意しないといけないなと思いを新たにするとともに,皆さんもお気をつけて。