「楽しい」とされるリズムやテンポのクラシックを教えてください。

12月に音楽に関連する事例をいくつか取り上げましたが,その流れでもう一つ紹介したいと思います。音楽というよりどうやって問い合わせに対応したか,というものなので,直接音楽とはあまり関係はありません。
むしろ,以前も ゆるい法律(刑法)の本,ありますか? - レファ協ほめまくり という事例を紹介したことがありましたが,それと同様,レファレンスインタビューに注目したい事例です。
回答と回答プロセスを引用して見ていきます。

<回答>
「楽しい」とはどのような意味か難しかったので、一般的な「楽しい音楽」=「リズムのテンポが良い曲」ではないかと解釈して、「子犬のワルツ」のようなリズミカルなクラシックを探した。実際に聞かなければ、なんとも回答しようがなかったので、「モーツァルト」や「シューベルト」といった、一般的に明るい曲が多いとされる作曲家の楽曲を実際に試聴してもらって、気に入ったものを選択してもらった。

<回答プロセス>
「楽しい」とはどのような意味か難しかったので、「何のために必要か?」を詳しく質問。
「心理学の研究の一貫で、幼児にさまざまなパターンの女G区を聞かせた場合の反応を調べる」とのことだった。*1

他のジャンルの音楽は「親や保育者が、幼児に聞かせている可能性が高く、条件反射が確立している場合があるので、選択肢から除外」とあり、クラッシク限定で探しているとのこと。

お客さんと相談しながら、一般的な「楽しい音楽」=「リズムのテンポが良い曲」ではないかと解釈して、「子犬のワルツ」のようなリズミカルなクラシックを探した。
実際に聞かなければ、なんとも回答しようがなかったので、「モーツァルト」や「シューベルト」の楽曲を実際に試聴してもらった。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000033896

レファレンス協同データベースは,そのサービスの性質から,非同期のデジタルレファレンスサービスと類型化することができます。インターネットをはじめとする電子空間で展開されるレファレンスサービスであること(デジタルレファレンスサービス),レファレンスそのものを事例化したものを蓄積するため利用者とのやりとりがそのまま電子化されたものではないこと(非同期)がそのように類型化できる理由です。
非同期型のレファレンスサービスは,当然ながら,レファレンスインタビューという側面そのものの分析はしづらいのですが,事例化するときにある程度インタビューを記述することは可能です*2
この事例では,「楽しい」という単語をどのように図書館資料を提供するためのキーワードに変換するかがポイントになりますが,「リズムのテンポがよい曲」という観点から探していくことになりました。ここに至るまでに「心理学の研究の一環」という点や,楽しい曲であっても「クラシック限定で探している」という点などを聞き出しています。さらに,参考資料に「クラシックの楽曲の解説図書関係」とあることから,何冊かの本を見ながら,リズムやメロディー,和声,楽式などを参照したのではないかと思います。このプロセスでは,インタビューを中心に,クラシック音楽の関係書をみながら,「楽しい」を「リズムのテンポがよい曲」という点から探すことになりました。ワルツのような舞踏会の音楽であれば,一定のリズムであまり暗いイメージの曲はないはずですよね。
このような思考は,インタビューを通じて,質問者と話しながら,具体的に資料を探す段まで持って行きますので,それほど長い時間をかけておこなうものではありません。この種のレファレンスは,話しあうことによって,質問者もライブラリアンもお互いに「どんな資料を探せばいいのか」について,まとめ上げるプロセスそのものが重要です。それがはっきりすれば通常の所蔵資料調査です。
結果的に,どのような曲を選択したのか,この事例からははっきりわかりませんが,おそらく,名前が挙がった作曲家の曲を中心に提供したものと思います。
音楽そのものを提供するレファレンスの回答時には,ここにあるように,試聴しながら資料を選べるのは嬉しいサービスです。
この事例のようなレファレンスインタビューの重要性がわかる事例というのは,勉強になりますね。

*1:この文の「一貫」は「一環」の誤字と思いますが,「女G区」は「曲」の誤字でしょうか……?

*2:ただし,いわゆる言語学の談話分析を援用して事例分析を行うことは難しいと思います。とはいえ,いつか談話分析的な手法でレファレンスサービスを分析してみたいと思っています。過去にやってみようかと思ったことがあったのですが,適当な事例を探せなくてやめたことがあります。