甲斐から若狭に来た武田氏の家臣を知りたい。

ある地域について,中世,近世期にはどのような地域だったかについて調べている人は相当数いらっしゃいます。当時の政治状況をはじめ,有力者の人となりや逸話を調べている人もいれば,川の位置の変化や堤防の場所を経年的に追いかけている人もいれば,と人それぞれ,様々です。
まずはこの事例の回答と回答プロセスをみていきます。

<回答>
1.若狭武田氏の有力家臣一族の一覧は、『安芸・若狭武田一族』(高野賢彦/著 新人物往来社)p102〜103にまとまっている。大飯石山城の武藤氏等が抜けているが、以下の主要一族ほかの表記がある。
・粟屋氏:美浜佐柿/国吉城/在京奉公人筆頭
・熊谷氏:三方佐古/三方郡郡司
・白井氏:小浜加茂
・内藤氏:西津・遠敷/天ヶ城守護代遠敷郡郡司
・逸見氏:高浜/高浜城/大飯郡郡司・在京奉公人

2.その他関連資料
 ・『若狭守護代記』 H264/ワカサ
 ・『戦国の若狭』 大森宏/著 H264/オオモ
 ・『福井県史』、『小浜市史』など

3.個別の一族・人物に関する資料
(1)粟屋氏
・『国吉城篭城軍記と敦賀・美浜 城主粟屋越中守勝久を偲んで』 松金勝/著 H251/マツカ
 ・『佐柿国吉城「戦」物語』 美浜町教育委員会 H271/ミハマ
 ・『若州三潟郡佐柿国吉篭城記』 須田悦生/編著 H271/ス
(2)逸見氏
 ・『戦乱の高浜城主逸見昌経展 郷土の中世と逸見一族』 高浜町郷土資料館 H289/ヘンミ
(3)白井氏
 ・『若狭武田家臣白井文書』 若州古文書編纂会 H275/ワカサ

4.若狭武田氏と家臣達を中心とする小説
 ・『私本・若狭太平記』 岡村昌二郎/著 (H930/オカム)
 ・『玉椿物語』 水上勉/著 (H930/ミナカ)

5.インターネットのサイト
 ・「若狭武田氏」http://wakasa.k-server.org/

<回答プロセス>
1.はじめ、「若狭国守護職次第」を探していると言われたので、『群書類従4』に所収されているものを提供した。しかし、内容を見て時代がちがうとのこと。『国史大辞典 14』で「若狭国守護職次第」を引くと、p844に「建久7(1196)年から応永29(1422)年に至る間の若狭国の歴代守護について編年的に記した書」とある。質問者はこれ以降の記録が見たいとのことだったで、「若狭守護代記」(江戸時代に書写されたものらしい)を紹介する。
2.若狭武田氏の家臣に関する資料が見たいとのことなので、中世史を中心に回答資料を紹介。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000036547

この事例にあるような質問は,地域資料室でよく出会います。地域郷土に関するレファレンスは,資料そのものがあるかどうかもさることながら,その資料に行き着くまでの2次資料があるかどうかもはっきりしない場合もあり,なかなか難しいなと思うことがあります*1
が,この事例はそういう難しさの中でも,回答プロセスがきちんとわかりやすく記述されているので,とても良いと思います。この地域に明るくなくても,とりあえずどうやって,どのような資料にあたればいいのか,が把握できます。
回答の仕方も丁寧ですね。項番をしっかり振り,回答の構造が一目でわかります。
地域のことは地域の図書館に尋ねてみるというのは地域調査の一つの手法ですが,レファレンス協同データベースを検索してみると,ヒントが得られるかもしれません。地域史に関する事例は,その地域ならではのものです。
利用者にとっても,図書館にとっても,レファレンス協同データベースは地域史研究に役立ちますね。

*1:ライブラリアンとしては,慣れて勝手を覚えてくると,単純なレファレンスには,資料の提供なしに回答のみを提供したくなることもあるので,なおのこと難しいなと思います。