灰谷健次郎作品「幼美神」の本を探しています。『昭和34年 中国新聞第9回 新人登壇文芸作品入選』とのことです。ただ出版されたということはどこにも記載がありません。

灰谷氏が亡くなってから1年以上が経ちます。彼の作品を探しているというレファレンスですが,作品集や出版された本を丹念に調べればわかる……と単純にはいかないみたいです。
回答を引用します。

 灰谷健次郎著「幼美神」については,灰谷健次郎,広島の文学,中国新聞社関係の資料等を調べましたが,図書として出版されている事実は確認できませんでした。
 ただし,次の資料等による手がかりをもとに,『中国新聞』を調査したところ,作品の掲載がありました。
 『国文学 解釈と鑑賞』第61巻4号(1996.4)
  「灰谷健次郎」熊木哲/著(p.114〜116)という記事の中に「短篇小説「幼美神」が中国新聞第九回新人登壇文芸作品ニ席に入選(昭和三四)したのをはじめ,」(p.114)という記述があります。
 『灰谷健次郎の本 7』(参考資料1)
  付録の年譜「1959・昭34・二五歳」の項に「中国新聞第9回新人登壇文芸作品に「幼美神」が二席入選し,掲載された。」とあります。
 『中国新聞』昭和34年11月9日 10面
  「第9回新人登壇 文芸作品入選者決まる」という見出しの記事があり,「【第二位】=賞金五千円=「幼美神」灰谷健次郎(ニ四)神戸市須磨区権現町三丁目」とあります。また,7行程度の「評」が掲載されています。
 『中国新聞』昭和34年12月21日 10面
  「第二位 第九回新人登壇文芸作品 幼美神 灰谷健次郎」という見出しで作品が掲載されています。
  ただし,残念ながら,当館所蔵のマイクロフィッシュでは,紙面右肩が一部欠損しており,作品の出だし4行程度が不完全な文章となっています。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000041275

まず調べていくと,作品刊行の事実が確認できない,ということがわかりました。これは質問者もある程度調べているようですね。さぁ,どうしましょうか。
考えられるのは,作品集や,作家論,作品年譜など,探したい人物を取り上げている資料を調べていくことです。この際役立つのは,作品集の解説や雑誌の記事索引です。文学専門誌などで特定の作家を取り上げるときには,年譜が掲載されていることが多いです。また,全集や作品集にも年譜や作品解題などが載っていることがあり,やはり調査の手がかりになるものです。
試しに,雑誌記事索引を引いてみます。NDL-OPAC雑誌記事索引でタイトルや著者にキーワードとして作家名を入れてみると,手がかりが得られることがありますので,「灰谷健次郎」をタイトルに入れてみました。ちなみに特定の年代を意識しているのでなければ,とりあえず広めに年代指定をして検索し,必要に応じて絞り込んでいくという方法が記事索引では有効だと思います*1。すると数十件ヒットしまして,その中に,回答文中で紹介されている資料も見つけることができました。記事を見ると,中国新聞文芸賞を取ったことがわかります。
さらに,作品集ですが,『灰谷健次郎の本」という資料の年譜にも,同様のことが書いてあります。
問題は,作品そのものの入手です。これまでに調べた作家研究の論文や年譜にも,「幼美神」の刊行情報は得られていません。つぎにとるべきは,中国新聞文芸賞に関する情報を探すことですね。中国新聞文芸賞というくらいなので,中国新聞紙上でなんらかの発表があるに違いない,という予想は容易に立てられます。中国新聞には縮刷版があるようですので,それを見ていくといいでしょう。
果たして,当時の中国新聞に受賞記事と作品が掲載されていることがわかりました。これで,見事に解決です。順番に調べるべき事をきちんと調べていくと,求める事項に辿り着くという良い例だと思います。……惜しむらくはマイクロフィッシュの状態でしょうか。
ちなみに,他に中国新聞の所蔵機関がないか調べる時には,国立国会図書館が作成している「 全国新聞総合目録データベース を利用すると便利です。もっとも,すべての新聞所蔵機関が所蔵データを提供しているわけではありません。通常の所蔵機関検索として,近隣の県立図書館や大学図書館,各類縁機関などをあわせて探すことが必要です。
いや,しかし。こういう作品があると知ると読んでみたくなりますね。いきなり個人的な好みを明らかにするのもなんだなぁと思いますが,nachumeは灰谷健次郎作品をよく読んでいました。小学生の頃から,大学を卒業してからも。今でもたまに読みかえします。彼の思想に100パーセント賛同するものではありませんが,文学として構築された世界が好きなんです。たぶん。入手したいなーと思っています。

*1:この方法は,NDL-OPACの記事索引が無料で使えるデータベースだから使えるものです。定額制ならまだしも,一回の検索ごとに課金される有料のデータベースだとなかなかできません。