野球の試合などで使われる「ペナント・レース」という言葉は、海事関係の用語がもととなっていると聞いたが、その語源が判る資料はないか。

新年度が始まって1か月が経ちました。図書館に配属されてレファレンスを行っている人もいることと思いますが,そろそろ慣れてきた頃でしょうか。4月は自分が置かれた環境がガラッと変わってしまう事が多く,それが楽しくもあり辛くもありますよね。
さて,そんなこんなで,レファレンスカウンターでよくある形の質問を取り上げてみたいと思います。語源調べとでもいうのでしょうか,「○○という語の語源を調べたい」という形の質問です。今回は「ペナント・レース」という言葉ですが,調べる言葉は何でもいいわけです。
通常であれば,語源辞典の類を引いていくというのが定石ですが,今回取り上げた事例は専門図書館の提供事例という事もあり,語源辞典類以外の資料をうまく使って回答しています。
回答と,参考資料を引用します。

<回答>
雑学的な話題として何かに出ていないかと思い、(1)(2)などを当たってみたが出てこない。(3)などの辞書類も見たが、由来などは特に書かれておらず、「ペナント」は“旗”や“優勝旗”を意味するとだけある。
他、その手の話題が載っていそうな雑誌として(4)を選び、目次と索引を探したところ、旗に関する特集記事を組んでいた号を見つけた。ペナントに関する逸話として、ブルーリボンやネルソン提督の信号旗について紹介してあったが、直接「ペナント・レース」という言葉につながる記述はなかった。
(5)などの旗に関する資料は若干ある旨を伝えた。

<参考資料>
(1)「海と船のいろいろ」(M.04/O73)
(2)「船協月報」(日本船主協会) 海運雑学ゼミナール
(3)「英和海語辞典」(RM.03/Y73)
(4)「ラメール」(日本海事広報協会)(1994年1月 104号) 海と船の百科 9.旗
(5)「旗と信号」(R558/N77)
(※引用にあたって丸囲み数値は改めた)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000002536

事例提供は日本海事センター海事図書館*1です。この図書館はその名の通り海事関係の資料を収集している専門図書館で,一般利用も可能です。参考資料として参照された資料が船に関するものであるのはそういう蔵書構成だからということがあります。
蔵書構成に拠らず,語源を調べていく方法としては,前述のように語源辞典の類にあたるというのが最も一般的かと思います。問題はその辞典で見つからなかったときの次の一手ですよね。
事例を読むと「雑学的な話題として何かに出ていないかと思い」という発想で,資料を探しています。「ペナント」という言葉について何か書いてありそうな資料にあたっています。この発想はとても重要ですよね。アプローチを変えてみるというのはレファレンスの調査過程において非常に役立つ方法です。
問題は「雑学」ってどんな資料を参照すればいいんだろう,ということです。タイトルに「雑学」とついていない資料だって山ほどあります。分類を探すにしても,どんな分類を参照していいかいまいち判断が付かないかもしれません。
この点,専門図書館は雑学とはいっても蔵書構成がある程度固まっていますので,この場合は船舶・海自関係の資料から雑学よりのものを探すという事になるでしょう。公共図書館のように,広い主題を所蔵している図書館で,「雑学」というのはなかなか探しにくいかもしれません。どうやってたどり着こうかと考えると,例えば「雑学」をタイトルに含む資料を探し,実際に書架を見るときにはその周辺を合わせてブラウジングするというような事がオーソドックスかなと思います。
はっきりと解決に至る情報は無かったけれども,そういうアプローチで資料にあたって回答している事がわかります。
また,回答文には「その手の話題が載っていそうな雑誌として」という一文も見逃せません。図書だけで終わらせずに,雑誌を回答時の資料として提供するというのはレファレンスとして非常に重要なポイントです。「ラメール」という雑誌は船舶・海事関係の雑誌としては定番といってもいいものだと思います。どこの図書館でも所蔵しているものではないかもしれませんが,機会があれば是非見てほしい雑誌です。
こんな風に特定の主題に対して定番の雑誌をいくつか覚えているだけでも,レファレンス回答時に提示できる資料の幅は広がります。自館の受入雑誌で,どんな質問に対応できるか自分なりに考えながら見ていくと,きっといつか役に立つと思います。ちょっとした自己研修にもなりますね。
ちなみに『平凡社大百科事典』(平凡社1984-1985*2)の「ペナント」の項には「競技の優勝旗をペナントと呼ぶようになった由来,時期などは不明であるが,優勝旗やカップなどに優勝者(優勝チーム)の名を記してつける短冊状のりぼんもペナントというので,ペンダントとペノンの混合したものと考えるのが妥当であろう」とありました。ペナントレースとの関係は直接書かれていませんし,ペナントと優勝の関係も「不明である」とされています。やっぱり「ペナントレース」についてはよくわからないものなのでしょうか……。
このサイトでも何度も指摘しているように,未解決を回答に出すときには回答プロセスを明らかにしながら回答を出すべきなのですが,この事例のように,資料選定の根拠にも触れているとよりすばらしい回答になると思います。この辺は本当にすばらしいと思います。


以下余談。
この「ほめまくり」については,4月の更新を,さぼってしまってました。職場は変わっていないのですが,いろいろあって,自宅を引っ越しました。いやー。新しい所に住むというのは気分がガラッと変わりますが,ダンボールに詰め込んだ荷物をどうやって片づけようか途方に暮れています…。そして電話の開通工事も少し時間がかかるということで,ネットに接続するのもモバイルのみという環境です。ちょー不便です。

*1:日本海事センター

*2:ちょっと古くて恐縮ですが