「わが恋は行方も知らず果てもなし」の和歌の作者を知りたい。

今回は,和歌の作者をさがすというレファレンスを取り上げてみようと思います。
まずは,回答と参考資料を引用します。

<回答>
二十一代集データベースで下記の歌がヒットした。 

古今和歌集巻第十二 恋歌二 611番歌

L 詞書よみ たいしらす
H 作者(原) みつね
I 作者(標準) 躬恒
W 和歌(原) わか恋は/行ゑもしらす/はてもなし/あふを限と/思ふはかりそ
X 和歌よみ わかこひは/ゆくへもしらす/はてもなし/あふをかきりと/おもふはかりそ

<回答プロセス>
二十一代集データベース(国文学研究資料館) http://ocelot.nijl.ac.jp/dlib/21dai/ (2009/07/21確認)
古今和歌集 / [紀貫之ほか奉勅撰] ; 小沢正夫, 松田成穂校注・訳 小学館 , 1994 (新編日本古典文学全集 11) ISBN:4096580112 p.240

和歌について調べる時に利用できる資料といえば,まずあげられるのは『新編国歌大観』(角川書店,1983-1992)でしょうか。冊子体は10巻20冊のほか,CD-ROM版があります。冊子体『新編国歌大観』の索引は歌集-各句索引で構成されているので,調査の場面によっては使いにくいこともあります(全巻通しての索引がない)。CD-ROM版ではキーワード検索ができるので,特定の語句を含む歌を探すことができますので便利です。両方を調査で使えると効率よく調査が進むと思います。
では,いきなり「国歌大観」のような資料ではなく,できれば初動調査にも使える和歌のデータベースはないかというと,この事例で取り上げている「二十一代集データベース」がいいと思います。国文学研究資料館によるデータベースで,正保版本二十一代集を底本としています。このデータベースで見つかれば当然「二十一代集」に含まれる和歌ですので,あとは質問者の求めに応じた資料(この事例では「古典文学全集」を提供しています)等所蔵調査へ移行できます。
このデータベースで見つからないときは,『新編国歌大観』やその他のレファレンスツールをさらに調査することになると思います。和歌を調べるためのレファレンスブックとしては,『新編国歌大観』や『校註国歌大系』(講談社,1976(1928-1931の復刻版)),『典拠検索新名歌辞典』(明治書院,2007)があります。『典拠検索新名歌辞典』は明治期までを収録対象にしているので,『新編国歌大観』や『校註国歌大系』で見つからない和歌も見つかるかもしれません。
ほかにも沢山のレファレンスブックがありますし,レファレンス協同データベースにも沢山事例が収録されています。そういう情報をまとめて探すには「リサーチ・ナビ」が便利です。国立国会図書館が作成した各種調査に関する情報を総合的に取り扱うサイトです。「本を探す」「調べるヒント」と大きく二つのコンテンツを辿っていくか,あるいはキーワードを適当に入力して,辿っていくかは調査によります。
たとえば,和歌であれば「調べるヒント」→「調べ方案内をカテゴリから探す--言語/文学--文学」→「調べ方案内-和歌・俳句の検索」と辿る方法もありますし,検索ボックスに「和歌」と入力して,調べ方を辿っていく方法もあります。レファレンス協同データベースの事例も同時に検索されますので,便利です。
レファレンス協同データベースを「和歌」で検索するとわかるのですが,地名を詠み込んだ歌の調査には,地域資料が有用であることも多くあります。行き詰まった場合の発想法の一つとして覚えておくのもアリだと思います。
例えば,「http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000001426=笛吹川を詠み込んだ和歌を知りたい」,「近江八景を詠んだ和歌8首を知りたい」などは,地域資料を回答資料として提供しています。
事例と直接の関係がない部分が長くなりましたが,この事例は,基本とされるツールを段階を追ってきちんと使用していることが見えます。提供した「新編日本古典文学全集」もそれなりの評価の定まった資料です。もっとも,古典文学は底本によるテクストの異同という問題がありますので,その辺りは質問者と話をする必要があります。この事例では分かりませんが,多分和歌の作者が誰なのかを確認できれば良かったのでしょうから,底本テクストの異同までは問題にならなかったのだろうと思います。素早く資料提供に至っている点は本当にすばらしいと思います。
この事例にもあるような「和歌の作者をさがす」という質問は,日常的によくある質問かどうかはともかく,レファレンスサービスの教科書や,専門資料論等の授業ではよく取り上げられているように思います。ある程度,定番とされる資料や調べ方が確立している分野と言えますので,こういうのもたまには読みかえしておく必要があると個人的には思ってます。