江戸時代の飢饉の図はないか。享保年間の飢饉の図がよいが、なければ他の時代の図でもよい。

飽食の時代と言われていますが,日本社会が食糧難から完全に逃れたのは,戦後のことです。nachumeの小さいころ,祖父は自分の経験を踏まえて食べ物を粗末にしてはいけないということを何度も話してくれました。
今回紹介する事例は少し歴史をさかのぼって,近世の飢饉についての資料に関するレファレンスです。江戸時代には大きな飢饉が何度かありました。享保の飢饉に関する資料,とくに絵図はないか,という質問です。資料はあれど,図版がないということはしばしばですが,それだけに見つかるとうれしさもひとしおです。
回答と参考資料を見ていきましょう。

<回答>
資料1:p.368「享保の飢饉 享保17年(1732)に畿内以西をおそった大飢饉・・・」という解説があり、「享保の飢饉(『凶荒図録』より)」という絵が引用されている。『凶荒図録』(小田切春江編 木村金秋画 愛知同好社 1885)は中央図書館特別文庫室で所蔵している(東673-32)。
この図以外、享保の飢饉について書かれた絵図は見出せなかった。
資料2、資料3:資料4の『民間備荒録』の中にある図の1枚。(宝暦の飢饉)
資料4:『民間備荒録』(建部清庵作 須原屋市兵衛 明和8年刊)を収載。 資料2、資料3の原画を含む。
資料5:「天明飢饉之図」、「荒歳流民救恤図」等の図版あり。
資料6:巻頭に「荒歳流民救恤図」あり(図版12枚、白黒)。(天保の飢饉)『国書総目録』によると、天保9年刊の巻子本。国会図書館等で所蔵。
資料7:『凶荒図録』(天保7年の三河の凶作時の様子を描いたもの)の絵が4点あり。
資料8:一関市博物館で行われた展覧会の図録だが、「天明飢饉之図」等、飢饉の図版が多数収録されている。ただし、享保年間のものはなし。

<参考資料>
【資料1】 国史大辞典 第4巻 き-く / 国史大辞典編集委員会‖編 / 吉川弘文館 , 1984.2 R/2103/32/4A
【資料2】 事典しらべる江戸時代 / 林英夫‖編集代表 / 柏書房 , 2001.10 R/210.50/5080/2001
【資料3】 近世の飢饉 / 菊池勇夫‖著 / 吉川弘文館 , 1997.9 ( 日本歴史叢書 55 ) /6113/3171/97
【資料4】 江戸時代女性文庫 44 / 大空社 , 1996.5 /3672/3246/44
【資料5】 ビジュアル・ワイド江戸時代館 / [竹内誠‖監修] / 小学館 , 2002.12 D/210.50/5105/2002
【資料6】 日本近世饑饉志 / 小野武夫‖編 / 学芸社 , 1935 /6113/27/35
【資料7】 ヴィジュアル百科江戸事情 第1巻 生活編 / 樋口清之‖監修 / 雄山閣出版 , 1991.11 /2150/3071/1
【資料8】 民間備荒録 : 江戸時代の飢饉と救荒書 / 一関市博物館‖編集 / 一関市博物館 , 2002.9 D/611.3/5058/2002

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000021613

一般論として,日本史に関するレファレンスを受けたとき,まず資料1の『国史大辞典』にあたるべきでしょう。見出しだけでなく,索引も充実しています。項目には参考文献が付記されているので,さらに詳細な資料検索へのとっかかりにもなります。この事例でも,項目の参考文献から,資料を探しています。*1
資料2以降は『国史大辞典』以外の参考図書を参照しています。江戸時代全般に関するものと,飢饉に関するものと両面からアプローチしているところも戦略として重要なところでしょう。
個人的なことですが,nachumeは以前「救荒書」*2について企画展示を行なったことがあります。『民間備荒録』は,飢饉に関する資料を調べていくと必ず出会う資料ですので,この事例でも,これがキーワードになったと思います。
この事例ですばらしいのは,単に百科事典やそれらから得られた資料だけでなく,資料8にあるような博物館の図録の類を提供しているところです。このような図録の類は,あるテーマを概括するのにちょうどよく,図版が豊富で,資料の所在がはっきりしていますので,非常に重宝します。図録類は一般書店で手に入るものもありますが,図書館のほうが圧倒的に強い資料です。この事例を提供したのは東京都立図書館ですが,東京にいながらにして,一関市博物館(岩手県)の図録を入手することができます。なくても,相互貸借できる資料ですので,どんどん図書館に相談してほしいと思いますし,レファレンスライブラリアンとしてはそのような相談も待っているのです。
また,回答の仕方として,質問者は享保年間のものを探していたので,得られた資料のうち該当するものは1つだけだということですが,このように,「これだけ探したうち,こちらは享保年間で,そちらはそれ以外の時代のものです」と提示した方がよいでしょう。質問者が「なければ享保以外の時代でもよい」と言っていることもありますが,そうでなくても,レファレンスのプロセスが明確になるような回答をしたほうがいいでしょう。何度も繰り返していますが,レファレンスは行き当たりばったり資料にあたったり,ある書架全部の資料に目を通したりして提供するものではありません*3
手順が極めて基本的で且つ的確であり,提示した資料も単なる図書資料にとどまらず博物館の図録をあわせて提供していることなどがこの事例のほめポイントだと思います! こういう回答を見ると図書館ってすごいなぁと思いませんか?

*1:近世の資料は物によっては各図書館で貴重資料の扱いをしていることが多く,ちょっと出かけていって見られる状況にないこともしばしばです。レファレンスの回答で,古典籍を紹介する場合には,充分な書誌調査(復刻資料など代替資料がないかなど)を行なわなくてはなりません。

*2:この事例にもある『民間備荒録』をはじめとする飢饉に備えるための書。

*3:これは最後の手段です。