1995年発売の西田幾多郎没後50年記念切手にある短歌「わが心深き底あり喜びも憂の波もとどかじと思う」の解釈を探しています。

哲学の道」という散歩道が京都市銀閣寺あたりにあります。nachumeは一度歩いたことがありましたが,あいにく雨が降っていて,思索にふけるような余裕は無かったのを覚えています。
この「哲学の道」は日本近代哲学に名を残す西田幾多郎に因んでいるそうですが,今回紹介するレファレンスは西田の詠んだ短歌についてです。
回答を引用します。

 お尋ねの短歌は、西田幾多郎の大正12年2月20日の日記に記されています。
大正8年、妻が病に倒れてから長男の死、子どもたちの病気と西田幾多郎
心穏やかにすごす日々がなかったようです。
 短歌をしたためた前後の事情や考察については、下記の資料にあります。
 
西田幾多郎の歌』西田幾多郎博士領徳会編 南窓社 1981
 47頁。143〜144頁。
西田幾多郎の憂鬱』小林敏明著 岩波書店 2003
 5頁。
西田幾多郎 苦悩と悲哀の半生』上田高明著 中央大学出版部 2005
 148〜149頁。253頁。
 短歌の解説としては、
西田幾多郎とは誰か』上田閑照著 岩波書店 2002
 186〜187頁にあります。お尋ねの趣旨に合うのは、こちらの資料ではないかと思われます。
(『上田閑照集』第1巻 西田幾多郎 170頁でも同様にご確認いただけます。)
なお、大正12年2月20日の日記は、
西田幾多郎全集』岩波書店 2005
 第18巻(103頁)に収められています。

レファレンスに回答するには,何をどのように調べたらいいのかをきちんと整理して調査することです。まずは,この短歌がいつ詠まれたのかを特定し,その周辺を探っていくというプロセスをたどるのが良いでしょう。この事例に限らず,特定の歌や詩などは,誰がどの時期に詠んだか,ということを特定していくのが定石です。
それを調べようとするならば,まずは調べようとする人物の日記集,全集,著作集,書簡集などを探していくのがいいでしょう。特定の人物が書いた種々の資料がまとめて収録されています。これらの資料は凡例をよくよみ,索引を駆使するとより求める情報を得やすくなります。
この事例に限れば,『西田幾多郎の歌』という「これだっ!」という資料がありますが,必ずしもこういうわけにはいきません。その意味でも,『西田幾多郎全集』をきちんと提供資料に加えているのは良いところだと言えます。もっとも,日記についてはこの全集に所収されていることに触れているので,最初に手にした資料は全集だと思いますが。
それ以外の資料は,歌が特定された後ですが,より伝記色のつよい資料です。
話は少しそれますが,いくつか伝記資料を探すときのTipsを挙げてみましょう。伝記を探すときにはタイトルに探したい人物名をキーワードとして入れるのは皆さん当然のようにやっていると思います。そのほかに,件名(OPACによっては「被伝者」という項目が別立てであり,人物に関係する資料を探しやすくなっているものもあります)に人物名をキーワードとして入れてみることも有用です。さらに,Webcat-Plusのような連想検索も思わぬ資料に出会うことがあり,手詰まり感を覚えたら使ってみると良いかもしれません。また,他館のOPACを引くというのも手です。自館目録には件名が登録されていなくても,他館の目録では件名が登録されているかもしれません。そんなところから,思わぬ発見もあるやもしれません。とはいえ,回答までの時間は限られていますので,ほどほどにすることも大事です。
閑話休題西田幾多郎に関する資料をいくつか挙げ,歌に関しての記述を丹念に追いかけています。この中では,『西田幾多郎とは誰か』を紹介するときに,質問の主旨に合致しているということも付加情報として加えている点も見逃せませんね。資料をただ渡すのではなく,質問に対する回答,参考情報などある種のウェイトをつけた提供です。この辺はやりすぎるともはやレファレンスとは呼べませんが,適度にできるととても丁寧な良質の回答になります。その意味でも,この事例はとてもクオリティの高いものと言えます。
西田幾多郎の本はなかなか読み通すことができませんが,それでも,季節柄文庫本を片手に公園で本を読む,なんてことができるような時期です。天気がよい日は外で静かに哲学にふける……。良い時間ですよねぇ……。