忌日(キニチ・キジツ)の「○○忌」から、人物について調べる方法はあるか。できれば最近の歌人・俳人について調べられるものがあるとよい。

6月19日は桜桃忌です。10年以上前になってしまいますが,一度桜桃忌に太宰治の墓のある三鷹禅林寺を訪れたことがあります。まるっきり個人的な思い出なのですが,三鷹から吉祥寺周辺のあたりをよく歩いていた時期が一時あって,あれこれ毎週末のように出かけていました。今では考えられないほどアクティブです。
いま,さらっと「桜桃忌」という言葉を使いましたが,この「桜桃忌」と「太宰治」とをさくっと結びつけられるかどうか,というのがこのレファレンスに回答する上でポイントになると考えられます。
回答と参考資料を引用します。

<回答>
参考文献に挙げたもので調べられるが、いずれも最近の人物はあまり掲載されていない。
また、歳時記に掲載されている忌日は、基本的に季語として定着しているものとのこと。

<参考資料>
『忌日行事歳時記』(世界聖典観光協会
『記念日・祝日の事典』(東京堂出版
『逆引き広辞苑』(岩波書店
『文学歳時記』(TBSブリタニカ)
『早引き俳句季語辞典』(三省堂
『新日本大歳時記』(講談社

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000032714

事例だけではどういうシチュエーションで質問があったのか分かりませんが,カウンターでのやりとり(だと思うのですが)としては十分な内容だと思います。
レファレンスに回答する場合,当然ながら,質問事項を整理する必要があります。その整理する過程において足りないと判断される事があればインタビューを通して,質問者から情報を入手して,質問を回答可能な質問にしていくプロセスが重要です。
そのプロセスを少し考えていきますと,「キニチ・キジツ」と読みを振ってくれているように,どちらかといえば物事を避けるという意味の「忌日(いみび)」よりも命日だとか七日区切りの日という意味を指すことが前提となっていることが分かります。また,「○○」に入る言葉は人物に関係した言葉を探していることが分かります。従って,「原爆忌」のような事柄に関する忌日ではないということも導き出されます。さらに,最近の歌人俳人という限定も付されています。
このあたりの整理ができたところで,実際に資料を紹介する段になりますが,「○○忌」は俳句によく用いられるものだという思考があれば,歳時記関係をあたってみようという行動がとれると思います。もし,そういう発想にすぐに至らない場合は,「忌日」という単語をOPACに入れて検索してヒットした資料の類書を探すというやり方でもいいと思います。
参考資料のほとんどはそういうプロセスを経ると得られるものです。
一つおもしろいと思ったのは『逆引き広辞苑』を提供している点です。ご存じのように「逆引き」なので,「き○○」という調べ方ができる事典です。この『逆引き広辞苑』1冊ではそこまでですが,さらに見つけた言葉を『広辞苑』をはじめ他の事典類で参照してみるのもいいと思います。
特定の「○○忌」を調べているというようりも,もうちょっと抽象度が高く,「○○忌」を全般的に調査したいということであれば,『逆引き広辞苑』のような事典類の提供は,質問者自身による調査を視野に入れた資料提供と言えましょう。この発想はすばらしいと思います。

第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムの記録集が公開されました。

今年の2月に行われたレファレンス協同データベースのフォーラムの記録集が公開されました。私も参加したのですが,そのときのレポは「第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムに参加したよ」です。
このレポには書いていないのですが,今回の記録をあらためて読み直してみると,「連携」というのも一つのキーワードだったのかなと思いました。
レファレンス(に限らないと思います)が図書館のみで完結すればいいのですが,そんなことばかりではありません。図書館の資料でのみ何かの課題が解決することはそれほど多くないはずです。利用者にとっては,課題解決のための資料や情報を得るための複数のリソースのうちの一つとして,そして複数のリソースの中でもとても敷居が低くて利用しやすいところに図書館ってあるはずです。
そういう声にきちんと応えたいなぁと最近ぼんやりと考えながら,どうやってそれを形にしようか思案しています。そんな視点でこのフォーラムの記録を読むとまた違った刺激を得られました。
ということで,第5回フォーラムの記録ですが,http://crd.ndl.go.jp/jp/library/history.html からページ中程の主な活動記録を辿ってください。PDFファイルへの直接リンクは下記からどうぞ。

野球の試合などで使われる「ペナント・レース」という言葉は、海事関係の用語がもととなっていると聞いたが、その語源が判る資料はないか。

新年度が始まって1か月が経ちました。図書館に配属されてレファレンスを行っている人もいることと思いますが,そろそろ慣れてきた頃でしょうか。4月は自分が置かれた環境がガラッと変わってしまう事が多く,それが楽しくもあり辛くもありますよね。
さて,そんなこんなで,レファレンスカウンターでよくある形の質問を取り上げてみたいと思います。語源調べとでもいうのでしょうか,「○○という語の語源を調べたい」という形の質問です。今回は「ペナント・レース」という言葉ですが,調べる言葉は何でもいいわけです。
通常であれば,語源辞典の類を引いていくというのが定石ですが,今回取り上げた事例は専門図書館の提供事例という事もあり,語源辞典類以外の資料をうまく使って回答しています。
回答と,参考資料を引用します。

<回答>
雑学的な話題として何かに出ていないかと思い、(1)(2)などを当たってみたが出てこない。(3)などの辞書類も見たが、由来などは特に書かれておらず、「ペナント」は“旗”や“優勝旗”を意味するとだけある。
他、その手の話題が載っていそうな雑誌として(4)を選び、目次と索引を探したところ、旗に関する特集記事を組んでいた号を見つけた。ペナントに関する逸話として、ブルーリボンやネルソン提督の信号旗について紹介してあったが、直接「ペナント・レース」という言葉につながる記述はなかった。
(5)などの旗に関する資料は若干ある旨を伝えた。

<参考資料>
(1)「海と船のいろいろ」(M.04/O73)
(2)「船協月報」(日本船主協会) 海運雑学ゼミナール
(3)「英和海語辞典」(RM.03/Y73)
(4)「ラメール」(日本海事広報協会)(1994年1月 104号) 海と船の百科 9.旗
(5)「旗と信号」(R558/N77)
(※引用にあたって丸囲み数値は改めた)

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000002536

事例提供は日本海事センター海事図書館*1です。この図書館はその名の通り海事関係の資料を収集している専門図書館で,一般利用も可能です。参考資料として参照された資料が船に関するものであるのはそういう蔵書構成だからということがあります。
蔵書構成に拠らず,語源を調べていく方法としては,前述のように語源辞典の類にあたるというのが最も一般的かと思います。問題はその辞典で見つからなかったときの次の一手ですよね。
事例を読むと「雑学的な話題として何かに出ていないかと思い」という発想で,資料を探しています。「ペナント」という言葉について何か書いてありそうな資料にあたっています。この発想はとても重要ですよね。アプローチを変えてみるというのはレファレンスの調査過程において非常に役立つ方法です。
問題は「雑学」ってどんな資料を参照すればいいんだろう,ということです。タイトルに「雑学」とついていない資料だって山ほどあります。分類を探すにしても,どんな分類を参照していいかいまいち判断が付かないかもしれません。
この点,専門図書館は雑学とはいっても蔵書構成がある程度固まっていますので,この場合は船舶・海自関係の資料から雑学よりのものを探すという事になるでしょう。公共図書館のように,広い主題を所蔵している図書館で,「雑学」というのはなかなか探しにくいかもしれません。どうやってたどり着こうかと考えると,例えば「雑学」をタイトルに含む資料を探し,実際に書架を見るときにはその周辺を合わせてブラウジングするというような事がオーソドックスかなと思います。
はっきりと解決に至る情報は無かったけれども,そういうアプローチで資料にあたって回答している事がわかります。
また,回答文には「その手の話題が載っていそうな雑誌として」という一文も見逃せません。図書だけで終わらせずに,雑誌を回答時の資料として提供するというのはレファレンスとして非常に重要なポイントです。「ラメール」という雑誌は船舶・海事関係の雑誌としては定番といってもいいものだと思います。どこの図書館でも所蔵しているものではないかもしれませんが,機会があれば是非見てほしい雑誌です。
こんな風に特定の主題に対して定番の雑誌をいくつか覚えているだけでも,レファレンス回答時に提示できる資料の幅は広がります。自館の受入雑誌で,どんな質問に対応できるか自分なりに考えながら見ていくと,きっといつか役に立つと思います。ちょっとした自己研修にもなりますね。
ちなみに『平凡社大百科事典』(平凡社1984-1985*2)の「ペナント」の項には「競技の優勝旗をペナントと呼ぶようになった由来,時期などは不明であるが,優勝旗やカップなどに優勝者(優勝チーム)の名を記してつける短冊状のりぼんもペナントというので,ペンダントとペノンの混合したものと考えるのが妥当であろう」とありました。ペナントレースとの関係は直接書かれていませんし,ペナントと優勝の関係も「不明である」とされています。やっぱり「ペナントレース」についてはよくわからないものなのでしょうか……。
このサイトでも何度も指摘しているように,未解決を回答に出すときには回答プロセスを明らかにしながら回答を出すべきなのですが,この事例のように,資料選定の根拠にも触れているとよりすばらしい回答になると思います。この辺は本当にすばらしいと思います。


以下余談。
この「ほめまくり」については,4月の更新を,さぼってしまってました。職場は変わっていないのですが,いろいろあって,自宅を引っ越しました。いやー。新しい所に住むというのは気分がガラッと変わりますが,ダンボールに詰め込んだ荷物をどうやって片づけようか途方に暮れています…。そして電話の開通工事も少し時間がかかるということで,ネットに接続するのもモバイルのみという環境です。ちょー不便です。

*1:日本海事センター

*2:ちょっと古くて恐縮ですが

合成皮革速報の1990年から1998年まで発行分を見たい。発行者は「合成皮革調査会」

欲しい資料の書誌事項(編著者や出版者がなどその資料を特定するための情報)が特定されているのになかなか資料にたどり着けないことってよくあります。「あるはずなんだけど……?」と悩む時間は誰にとってももどかしいものです。
今回紹介する事例は,そんな「あるはずなんだけど……?」な資料と利用者と結びつけています。回答と回答プロセスを引用します。

<回答>
合成皮革調査会によると、「合成皮革速報」は、図書館には頒布していないとのこと。したがって、図書館を通しての複写依頼などは不可能。合成皮革調査会でも、「速報」そのものは、倉庫に埋もれているのですぐに出せないが、調査内容によっては把握しているデータなどで回答できる場合もあるため、直接電話してもらえば答えます。とのことだった。

<回答プロセス>
1 自館OPACで検索→所蔵なし。
2 ふくい産業支援センターの所蔵資料を検索→所蔵なし。
3 NDL-OPAC、webcatともにヒットせず。
4 Googleyahoo!で、合成皮革調査会を検索→ホームページは開設していないとわかる。
5 合成皮革調査会は、大阪にあることがGoogle検索からわかったので、大阪府中之島図書館のホームページを見る。該当するデータなし。
6 タウンページで、「合成皮革調査会」を検索。直接電話する。
・合成皮革速報は、企業向けに頒布しているもので、図書館には納めていない。
・毎年新年号に、1年間の概説を載せているので、各号を見なくても、新年号を見れば分かるデータも多い。(本当に細かいことは各号を見ないとわからないらしい)
・古いバックナンバーも在庫はある。ただし、倉庫に埋もれているためすぐには出せない。
・利用者の調査テーマによっては、すぐにわかるデータを持っている可能性もあるので、直接問い合わせてもらっても構わない。

http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000027998

「あるはずなんだけど……?」の原因は図書館に頒布していないというのに起因しています。回答文には直接電話で問い合わせれば情報が入手できる旨案内しています。
この回答に至ったプロセスを読むと,調査過程で必要な事項をきちんと押さえていることがよく分かります。
まず最初に,質問から所蔵調査をすればよい,ということがわかります。自館の目録やNDL-OPAC,NACSIS-CATを検索するのは所蔵調査の基本事項です。これはライブラリアンはあまり意識せずに,段階的に行っている作業ではないかと思います。
すばらしいなぁと思うのは,「ふくい産業支援センター」という県の産業振興に関する団体で資料室があります。名前は様々ですが,どの都道府県にも似たような産業振興関係団体は存在し,業界誌や各種統計データなどを所蔵している場合がありますので,自館の資料で対応できない場合,特にこのような特定業界に関するデータや情報は専門機関の方が強いことから,そういう機関や団体を紹介するのも良いでしょう*1
また,大阪府立図書館のOPACを引いていますが,これは合成皮革調査会の所在地をきっかけにその地域の図書館を探しているものと思います(また,大阪府中之島図書館はビジネス支援図書館としても有名なので,業界誌などが所蔵されているのではないか,という期待もあったのだと思います)。
このように,所蔵調査を丹念にしていることがわかります。これくらい手順を踏むと,資料そのものの存在が怪しくなってくるのですが,それを解決するために採った手段が「直接聞く」です。これは案外有効なんです。そして,レファレンスブックの最たるものでしょうか,合成皮革調査会の電話番号はタウンページで調べています。見落としがちですが,タウンワークはいろんな情報が載っています*2
電話の結果,直接電話で問い合わせれば情報が得られることが分かりました。これだけでも,質問者にとっては有益な事だと思います。
ちなみに,この「合成皮革調査会」は,現在Webサイトを公開しており,「合成皮革調査会速報」も少しだけですがネットで見ることができます。

レファレンスサービスは資料と利用者を結びつけるのですが,これは言い換えれば,情報と利用者を結びつけるものとも言えます。
図書館は資料そのものを所蔵していなくても,情報を得るためのヒントになることがあります。図書館が公開しているOPACを引いて,「資料が無い」とあきらめる前に,レファレンスサービスを利用してみてください!

*1:このようなサービスをレフェラルサービスといいます。図書館はこのような専門機関への橋渡しを担うこともあります。

*2:全国各地の電話帳は少なくとも都道府県立図書館にあるはずので,近所の図書館に電話帳が無くても,所蔵館に照会してみてください。

第3回argカフェ&argフェスト(2009/2/21)に参加したよ

レファレンス協同データベース事業フォーラムの次の日,ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG)主宰のargカフェ&argフェストに参加してきました。

5分間のライトニングトークを中心に展開されるargカフェは何か考えるヒントがいっぱいなのです。今回ライトニングトークを行った12人の方々から発せられる5分間のトークからもやはりものを考える為のヒントが沢山あったように思います。5分間のパフォーマンスもパワーポイントを使ったものから,スケッチブックトークまで幅広いもので,これも楽しかったです(というかスケッチブックトークの一人勝ちです)。
メモ程度ですが,いくつか考えた点を列記していこうと思います。「〜〜のお話し」が簡単な内容紹介で,それ以外はnachumeの考えたことです(読めば分かりますが念のため)。

  • 當山日出夫(立命館大学GCOE(DH-JAC))「学生にWikipediaを教える−知の流動性と安定性」
    • Wikipediaの履歴を参照し,情報の完全性や安定性について考える課題を課しているというお話。「情報の安定性」というのはインターネット上の電子テクストに顕著に表れる問題と捉えテクストの利用はそういう性質を踏まえて行われるべきと思っています。
  • 小橋昭彦(今日の雑学/NPO法人情報社会生活研究所)「情報社会の“知恵”について」
    • 「今日の雑学」というメールマガジンのお話し。「知恵」はどのように伝承されていけばいいのか,「知識」とか「知」というのとは若干違うニュアンスで語る文脈が欲しいのだなぁと思いました。
  • 小篠景子(国立国会図書館) 「「中の人」の語るレファレンス協同データベース」
    • レファ協は情報の持ち寄りパーティ」であるが,全参加館の数パーセントの提供館が事例全体の約6割を占めている現実のお話し。スケッチブックトーク。個人的に,思うところは沢山あるものの,規模が大きくなれば,こういう状況も致し方ないと割り切るべきなのか,それとも抗うべきなのか,答えは出ません。
  • 三浦麻子(神戸学院大学) 「社会心理学者として、ブロガーとして」
    • ブロガーとしての立ち位置と社会心理学者としての立ち位置を明確にしているということと,心理学関係学会誌のオンライン公開のお話し。複数の立ち位置で,バランスをうまくとれているんだなぁと感心しています。
  • 谷合佳代子(大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー)「エル・ライブラリー開館4ヶ月−新しい図書管理システムとブログによる資料紹介」
    • 橋下府政の元で補助金全廃,エル・ライブラリーとして運営をはじめたお話し。ネットを利用して資料紹介をしようちう試みは応援したいと思いました。
  • 村上浩介(国立国会図書館)「テレビからネットへ」
    • 猫のデューイで,Current Awarenessが落ちたお話し(端折り過ぎか…)。妙な形でテレビの影響力をみた気がします。あと携帯電話からのアクセスも侮れないなと。
  • 後藤真花園大学)「人文「知」の蓄積と共有−歴史学・史料学の場合」
    • 情報歴史学。史料のデジタルは,単に史料をデジタル画像で残せば良いというものではなく,その史料のコンテクストをなにがしかの形で残す必要があるというお話し。資料1点ごとのコンテクストを考えながら,設計するのは相当難しそうです。
  • 福島幸宏(京都府立総合資料館)「ある公文書館職員の憂鬱」
    • 文書館の数の少なさ,コンピュータに関する関心が低いなど,憂鬱なお話し。世代交代によるリフレッシュはきっと業界を変えることに繋がると私も思います。
  • 中村聡史(京都大学)「検索ランキングをユーザの手に取り戻す」
    • 「Rerank.jp」を紹介しながら,コンピューティングに人間が介在することの重要性についてのお話し。コンピュータと人間の関係,もう少し狭めて,コンピュータ空間に体現されるテクスト(及びコンテクスト)と人間との関係を工学的に考えるってのはこういうアプローチなのか,と社会記号論をかじっていたものとしてはその手法に興味を覚えました。
  • 岡島昭浩大阪大学)「うわづら文庫がめざすもの−資料の顕在化と連関」
    • 資料は公有物であるはずなのに,実は制限されていることが多いということを踏まえ,氏の主宰する「うわづら文庫」についてのお話し。資料はデッドストックにあってはならず,資料へのアクセスをいかに確保するか,というのは我々の課題でもあります。
  • 嵯峨園子(中京大学情報科学研究科/ソシオメディア)「ライブラリアンの応用力!」
    • ご自身の経験を交えつつ,ライブラリアンのもっている力は,様々な所で応用可能な能力であるというお話し。私も全面的に同意するお話しでした。ライブラリアンの持つ発想法や思考法は絶対各所で応用が利くはずです。
  • 東島仁(京都大学大学院)「ウェブを介した研究者自身の情報発信に対する−「社会的な」しかし「明確でない」要請?」
    • ネットに見られる情報に対する研究者の態度や情報の受け手の問題についてのお話し。眉唾物の情報をどのように社会は受容するか,そして受容しないか,というサイクルを想定した場合,まさに「要請」という術語はしっくりくるなぁと思います。

こんな感じで。質疑も盛り上がりました。
そして第2部。要は飲み会です。岡本さんからは事前に,特定の人を独占しないことというルールを宣言してしていただけました。パーティで特定の人とばかり話してはいけません,なんて記述をいろんな所で目にしますが,このことはすごく大事な事ですよね。ということで,沢山の人とお話できました。Wikipediaの人やLifoの人,大学院生の方,さらにこの「ほめまくり」を読んでくださっている方もいらっしゃいました。初対面の人の方が圧倒的に多い中,お話しする機会を持てた方々に感謝です。また,個人的に前から一度お目にかかりたいと思っていた松田清先生ともお話しできたことは思わぬ幸福です。調子に乗って3次会までついて行ってしまいました。
こういう場には積極的に参加したいものです。
レファ協をほめまくるという趣旨からはずれた記事が続いていますがごめんなさい。

第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムに参加したよ

先週2月20日,第5回レファレンス協同データベース事業フォーラムが行われました。今回から,フォーラムのタイトルに「参加館」という言葉が含まれておらず,レファレンス協同データベースのこれまで以上の拡がりを感じるものでした。
詳しいことは,そのうち記録集が公表されるはずですので,それを待つことにして,個人的に印象に残った点をプログラム順に書いてみようかと思います。さすがにすべてについて触れられませんので,当日の自分のメモを元に,各プログラム項目から,一つないし二つ程度簡単に触れていきます。

  • 事業報告

年度の事業報告というのは大抵の学会やフォーラムでは,それほど大きなトピックとして取り上げるほどのものは通常ないのですが,今回は,個人的に「御礼状送付」が印象的でした。これは,累積データの登録件数・年間データ登録件数・年間データ被参照件数について一定基準を満たした参加館に国立国会図書館長から礼状が届くというものです。単に御礼状なのですが,なんというかこれは実際に届いたら,その図書館は嬉しいと思います。言葉にするとものすごく単純なのですが,モチベーションを維持するのにとてもこういう御礼状というのは効果的だと思うのです。このブログでもレファレンス協同データベースへ事例提供している図書館やライブラリアンを応援しているのですが,如何せん私は一介の図書館員に過ぎません。国立国会図書館長から御礼状が来たということはきっと大きな励みになり,意外に効果は大きいと思います。そして,もう一つ。この御礼状のための基準は,点数制で事例の公開レベルに重みがつけられていることにも注目しておくべきかと思います。

いくつか考える論点があったと思います。中でも,個人的には,図書館でのサービスにおいて,レファレンスサービスを中核とした場合,従来の業務(ワークフロー)の再編に繋がるという指摘は重要なものと考えています。どのようなサービスであっても,利用者の実際の活動に還元されて初めて有用なサービスになります。例えばビジネス支援というサービスは利用者の行動は図書館でのみ完結するものではありません。実際にビジネス活動を利用者が行うことが本来の目的ですから,図書館はあくまでも利用者行動の一フェーズに携わるだけです。この事は,逆に考えると,図書館でできることは何かという点が非常に重要なわけで,ビジネス活動サービスを例にするまでもなく,他機関との連携という点は必ず考えてサービスを組み立てる必要が出てきます。「図書館のサービスって何だ?」「図書館はどこまでサービスの対象とするのか?」という問いが必ず発生するわけです。必然的にこのことは従来的なレファレンスのサービスを再編する必要がどこかで生じます。もちろん,変えなくていいところ,維持しなくてはいけないものはありますが,新たにサービスを組み立てる場合,特に,図書館以外の機関と連携するという点を視野に入れる場合,業務の再編というのは必ず検討されるべきであろうと私は考えます。

  • 報告(1)「香川県立図書館におけるレファレンス協同データベースの活用」香川県立図書館 藤沢幸応

香川県立図書館の実践報告。まさに実践報告で,日常的にどのようにして,レファレンス協同データベースを業務に組み込んでいくかという所を実例で示されていてよかったと思います。参加館の課題の一つは日常的にレファレンス協同データベースへのデータ登録などデータのメンテナンスを行うにはどのようにワークフローを組み立てればよいかというものだと思います(私の勤務する図書館でも課題です)。この点,レファレンス協同データベースが実験事業だったころから,参加していた香川県立図書館の報告は具体例の一つとして,応用可能なものと言えるのではないでしょうか。

  • 報告(2)「ワンパーソンライブラリーの可能性」紙の博物館図書室 竹田理恵子

前から,とても楽しみにしていた報告です。タイトル通り「ワンパーソン」=1人の図書室でのサービスについての報告です。レファレンス協同データベースをうまく利用し,図書室での処理フローに用いたり,コメント機能による未解決事例の解決といった「協同」についての話はとても参考になりました。竹田さんの発表に限らず,どの発表者も触れていましたが,レファレンス協同データベースをうまく広報に利用することも大事なのだと改めて思います。利用者へのアピールはもちろんですが,それぞれの館の上位組織へのアピールも重要な広報活動の一つです。ワンパーソンでできることをレファレンス協同データベースはさらに拡げているように思います。

大学図書館からの報告です。沢山のヒントがちりばめられた発表内容でしたが,一つあげるとすれば,「事例作成は”感想戦”である」という所です。神奈川大学では事例をまとめるにあたって,調査プロセスを徹底的に記述する方針を採っているとのことでした。ウィルソンの情報探索モデルやクルートーのそれを引用しながら,前述の「感想戦」へと続くのですが,これは言い得て妙だと思いました。感想戦は将棋や囲碁で対局後に一手ずつ再現しながらその戦術を検討していくものなのですが,レファレンス協同データベースに提供される事例はまさに実際のレファレンスの記録を集成したものですので,そのプロセスの記述はまさに「感想戦」です。何をして,何を提供したのか,あるいは何を提供できなかったのか,というレファレンスプロセスを振り返ることは,事例作成者のレファレンス能力を格段に向上させるものであることは間違いないと思います。

午後の部はパネルディスカッションです。話題提供ということでまず木下さんの発表があり,大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)の経緯についてもいろいろと考えることもありました。この発表につづき,レファレンス協同データベースを広報に,研修に,と様々に活用できる可能性を各パネリストの方々が話題を提供してくださいました。会場で収集された質問を適度に交えつつ,進められたのですが,広報や研修といったレファレンス協同データベースの活用を中心とした話題はもちろんですが,レファレンスとは,あるいはレファレンスサービスはどのように評価されたらよいかという大きなトピックにも触れられ,かなり多岐にわたる展開でした。
広報という点では,どこへアピールするかということと,どのようにアピールするかということを戦略的に行うことが大事だということにつきるのではないかと思います。これは図書館関係に限らず,どのような業種・業態・業界にも言えることでしょう。
研修ということで,個人的に面白い取り組みだと思ったのは,レファレンスブックからレファレンスの質問を作り出し,他の職員がその質問をもとにレファレンス演習を行うという研修を行っている木下さんの発言でした。一般にレファレンス演習は,過去の質問をもとに,仮想的にレファレンスプロセスをたどり組み立てていくものが多いのですが,これは逆のアプローチです。しかしながら,私はこれはとてもすばらしい取り組みであると考えています。とあるレファレンスブックから,質問文を作り出す能力というのは,そのレファレンスブックからどのような課題を解決できるかを理解し,自分の思考プロセスに組み込む能力です。これまで莫然と思っていたものでしたが,レファレンス研修に携わる機会があったら,是非やってみたいと思いました。
レファレンスサービスとは,とかレファレンスサービスの評価とは,という大きなトピックについては,議論は基本的に拡散するものですから,各種意見が出たということになろうかと思います。その中でいくつか自分が感じたことを挙げると,レファレンスサービスの評価は定性的なものであり,その定量的評価を無理に編み出す必然性は少なく,具体例を(レファレンス事例など)もって,どのような点で良いか,どういう効果が得られたのかを確認することが重要であろうという点です。特に「どういう効果が得られたのか」という点はともすれば,見落としがちな視点ですので,これはレファレンスサービスの広報にも取り入れたい視点だと思います。
そのほか,クエスチョンポイントの動向や,レファレンス協同データベースをプラットフォームにした研修など興味深トピックも話題に上がりました。
当然のことながら,決着がつくようなテーマではありません。議論を考えるためのトピックをいくつも提示してもらったという所で,非常に良かったと思います。そして,いつもながら,コーディネータの山崎さんのまとめは上手だなあと感心しきりです。私も見習いたい所です。
パネルディスカッションだけではありませんが,事例をインターネットで公開すると,検索エンジンで直接個別のリソースへアクセスされることが相対的に多くなります。当たり前のことですし,検索エンジンとはそういうものです。こういう部分をもっと意識した書き方というのもあるのかなと個人的には思っています。紙の博物館の竹田さんは,ブログで事例紹介をしているのですが*1検索エンジンを意識した文章の書き方をしているという事は非常に大きいものと思っています。インターネット上の電子テクストはテクストの構造化と相対化を同時平行的に行うことができることを本来的な機能として内包しています。冊子体に文章を書くのとは質的に若干異なるはずです。具体的にどこがどう違うのかというのは,考察を必要としますが,図書館で事例紹介をする場合には意識したいポイントの一つだと思っています。


ということで,レファレンス協同データベースのフォーラムに参加して思ったことや覚えておきたいことをメモとしてだらだらと長く書いてみました。昨年とはまた違う示唆が得られたように思います。あ,そうそう,昨年の登壇者が全員そろっていました。これもすごいですよね。事務局の皆さん,登壇者の皆さん,関係者の皆さん,会場でお会いした皆さん,お疲れ様でした。そして,ありがとうございました。

*1:「図書室の窓から 紙博図書室日記」id:kamihaku

第5回レファレンス協同データベースフォーラムは明日です。

2月はあっという間にすぎていきますね…。
明日に迫っていますが、例年通りレファ協のフォーラムが開催されます。

新たな方向性が見えてくるかなと思い、楽しみにしています。
nachumeも参加します!会場で見かけたら声をかけてください!